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今月のメッセージ
もうひとりの自分
京生研 藤木 祥史
「もうひとりの自分」という言葉に出会ったのは、1970年代後半の校内暴力期のことである。この言葉と出会ったからこそ、今までやってこれたと思う。
非行と向き合うとき、目の前で荒れ狂う子どもではなく、その裏にある、俺だってまっとうに生きていきたいと願う「もうひとりの自分」を信じて語りかける。徹底的にこの立場に立ちきると、不思議なことに、「もうひとりの自分」の声が聞こえてくる。
眉を剃り、パーマをあてて、特攻服を着たK男が「高校受ける」と言ったのは中3の2学期だった。「ほな、べんきょうしよか」と言うと、「勉強はせえへん、受験はする」と答えた。普通ならあきれて小言のひとつも言って終わるのだろう。しかし、これはもうひとりのK男の言葉だと思えた。すぐさま三ヶ月分の学習計画をつくり、問題集を買って家に行った。K男は無反応だった。
一月になってK男はバイク事故で入院した。私はチャンスだと思って、今度は二ヶ月分の学習計画と問題集を買って病院に行った。今回も問題集は開かれることなくどこかに消えた。
私学入試が終わった二月の中旬、一ヶ月分の計画と薄い問題集を用意してK男の家に行った。今度は少し開いて中を見た。もうひとりのK男が動き始めたように感じた。勇気がわいた。そして、公立入試の一週間前、リーダーの洋一と一緒にK男の家に行った。今度は入試直前4教科問題集を買っていった。洋一と一緒に少し取り組んだ。
この間、暴走族の集まりに参加するK男を連れ戻しに、夜の繁華街に出向いたこともあった。暴走族が集まる店の前で、中に入ってからどう言ったらいいか何度もシミュレーションをした。「K男!はよ帰って勉強しよや!」これに決めた。これなら周りと喧嘩にならないし、話も出来ると思った。何度も問題集を買っていて良かったとも思った。(店に入ったら、すでに移動していて空振りだったが……)
「もうひとりの自分」という言葉に出会ってから、どこまでも子どもに寄り添えるようになった。どんな局面でも切り抜けられる勇気を得た。
あれから約三〇年が過ぎた。T男には、私が語りかけるべき「もうひとりのT男」がない。育っていないと思った。仲間への乱暴な振る舞い、聞くに堪えない暴言、注意する教師にも「うるさい」「向こういけハゲ」「キモイ死ね」の連発で指導を拒否するT男である。「もうひとりの自分を信じて語りかける」信念が揺らぎながらの日々を送った。
教師の指導は受け付けないT男も、生徒同士の話し合いには参加した。T男が引き起こすトラブルは、紛争委員会と名付けたクラスの有志(関係した生徒とリーダー候補が集まる)で解決をはかった。これまで一年半の間に、大小併せて三〇回くらいは話し合ってきた。解決の中身はすべてクラスに報告してきたし、四、五回はクラス全体でも討議してきた。それらの話し合いを一度も逃げ出したことはないし、むしろ嬉しそうでもある。
今、私はT男の中に「もうひとりの自分」を育てているのだと思えてきた。かつて、高校は行きたいが、勉強に向き合うのが怖い、ひ弱な「もうひとりの自分」を励ましていたが、私とクラスの仲間が育てるT男の「もうひとりの自分」は、育ち始めたらたくましいかも知れない。そんな気がしている。
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- 明治図書