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今月のメッセージ
子ども社会の危機
常任委員 安島 文男
貧困が可視化されてきたなかで、問題のとらえ方がこれまでとは異なる広がりをみせてきているように思う。
「朝食をとってこない」「夕食をスナック菓子ですませている」「電気・水道を止められている」といった経済的困窮から見出せる子どもの生活能力の剥奪だけでなく、階層化された生活文化によるコミュニケーションの困難さ、排除し対立する関係性の深刻さなどが明らかにされつつある。
小学校1年生の男子だが、給食を前に困惑した表情を浮かべ、食べようとしない。「どうしたの」と聞くと、「家で食べたことがない」「見たことのない料理」「どうやって食べたらよいかわからない」という。驚いて話を聞いていくと、「これまで母親が食事を作ったことは一度もない」「コンビニ弁当しか食べたことがない」という。
毎日、トイレに1、2時間閉じこもったままの子がいる。お腹の調子が悪く、トイレを出るに出られない。長い時には午前中いっぱいのこともあり、原因は食生活の不規則や偏食による排便の問題に限定できず、生活する身体それ自体が損壊しているという。学校は行政が対応すべき貧困問題にどこまでかかわれるのかという疑問や論議で逡巡している間に、現実にはすでに主要な課題になりつつある。
同じく小学校1年生の男子だが、放課後の行動が「家」を求めて浮遊しているようだという。友だちの家を訪ね歩き、勝手に冷蔵庫を開け、テレビを見、ゲームをして、帰宅するよう促しても帰ろうとしない。自分の家のように上がりこんでいたりもする。今ではどの家庭も、警戒するだけでなく嫌悪し、ドアを開けようともしない。その反動からか、授業中の立ち歩き、奇声、床に寝そべる等のトラブルから、友だちのノートを破る、筆記用具を折る、等の攻撃性を示すトラブルに陥っている。クラスでは多くの子が、特に女子が「ウスワライ」を浮かべて見ているという。そして、無思慮な暴力性を発揮してくる。「センセー、Aくんイヤナニオイする。隣の席ヤダ。同じ班になりたくない」
路上生活者を市民生活の空間から排除するのと同じように、子どもたちもまた、生きるのに困難なクラスメートを、唯一の居場所となりえる可能性をもった教室空間から排除していく。階層分化状況は排除の関係を強化していくだけでなく、暴力性もまた構造化していく。Aくんの人間としての尊厳を踏みにじり、自尊心を切り刻み、そしてその困難な事態の理解を閉ざし、孤立に内閉していくことで、無力化していく。
排除する側のイデオロギーと文化が支えている秩序には、Aくんを無力化することでつくりだす弱者の暴力性を「希望は戦争」と主張したフリーターの青年の社会観へ、さらに米国の青年が兵士となっていく以外貧困から抜け出せないのと同じすじ道へと向かわせるものが色濃く含まれている。平和を希求し、幸福を追求する権利を希望をもって行使する存在である子どもたちに、それとは逆の生き方を強いていく社会が現代である。
そうした社会に抗し、共同と連帯の意味を新たに問いなおす実践が求められている。
それは、「発達に刻み込まれた貧困がつくりだすトラブル、問題は、その子の問題ではなく家族の責任でもない」「生活能力の欠如や学習能力の未形成、そして学力不足の問題は、その子の能力の問題でもなく責任でもない」という、「自己責任と対峙する主張」を掲げる自治集団の形成である。
その理論と実践に、子どもの平和的な生き方がかかっている。
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