- 特集 不信から信頼へ―基本的信頼感を取り戻す
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- 不信から信頼へ―基本的信頼感を取り戻す
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- 第2特集 学童保育の現在
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- 学校と学童―子どもの成長を共有する営みを
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- 横浜の学童保育
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- 手をつなぐ―教師・親・地域の人々
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- 発達障害の問題を考える〈その4〉
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- 〜高機能自閉症の子どもへの理解と指導の問題を考える・part2〜
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- 貧困と発達
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今月のメッセージ
信じる
京都府・中学校 谷尻 治
「今日は、中学時代の自分にけじめをつけるために来た。先生には迷惑のかけ通しやった。結婚し、二人の子を持つ親の立場になって、先生らの思いや苦労がわかってきた。卒業して十五年。先生にはずっと謝りたいと思っていた。ホンマにすいませんでした」
「いや、ちがう。キミがいたからこそ、あのガンバ八組は成長できたんや。一人ひとりの居場所を作ること。その大切さを教えてくれたタクミに感謝してるで」
*
タクミと出会ったのは、彼が十四歳の春。転勤してきて早々の始業式の最中、校門近くで私服軍団が騒いでいた。学級開きが終わり、教室を整備していた私の前に現れた金髪の少年。それがタクミだった。袴のようなボンタンには、「殺人上等」と立派な刺繍が縫ってある。
「ハンコ押して」。突き出された用紙は、家庭裁判所からの呼び出し状だった。
一年生時の秋頃に家出を繰り返して以後、学校にほとんど登校しなくなった六人グループがいた。それぞれが家庭に複雑な事情をかかえていた。やがてバイクにシンナーと、お決まりの転落コースを歩んでいった。そんな彼らも「修学旅行には参加したい」と言ってきた。学校に来ないタクミたちと連絡をとるのは大変だったが、苦労して出発までたどりつけた。が、最初の休憩時に服装をめぐってグループが暴れはじめ、教師集団と数十分にわたる乱闘。旅行はそこで九〇分もストップした。タクミは旅館につくや、「こんな部屋はおもろない。帰る」と仲間を引き連れて山を下っていった。それを何とか説得し連れ戻すものの、勝手な行動はエスカレートし、部屋ではシンナー吸引までやる始末だった。
旅行後、教師集団と彼らの力関係は逆転し、これを境に学校は、三年間も荒廃した状況が続いた。
タクミたちの問題行動を打開しようと、団地に何度も足を運んだ。タクミの父親に久しぶりに会えた日のこと。父親はツッパリ仲間が鑑別所に入れられたことをなじるような言動をし始めたが、「まっ、あがれや」と家の中に入れてくれた。足の踏み場もなく物が散らかったようすに、この家庭の生活の厳しさを痛感した。はじめは怒り口調だった父親だが、「まっ、センセも飲んでぇや」と酒を酌み交わすうち、次第にうち解けてきた。そして酔いに任せて身の上話を始めた。
「ワシはててなし子やったんや。親父の顔も知らず育ち、天涯孤独の身やった。鑑別所に入っているときに、コイツ(妻)が面会に来てくれて、『お腹の中に子どもがいる』と言ってくれた。それがタクミや。……ワシのような者がセンセとこうして酒を飲める。ありがたい。そんなワシにとっては、タクミはどんな悪さをしていても可愛い可愛いやつなんや。この気持ち、わかってくれるか?」
この言葉を胸に「きっと私たち教師の願いはタクミに通じるはず」と信じることで、困難な現場に足を運び続けた。にもかかわらず、ツッパリグループの暴走は卒業式直前まで続いた。一年間の付き合いしかなかった私は、クラスのすばらしい成長には満足しつつも、タクミに対しては、「あの子には十分なことをしてやれなかった」と敗北感すら感じていた。
しかし、反抗しつづけたタクミも、あの集団の中で「人を信じる」という大切な心を育てていたのだ。
同窓会中、私のそばを離れなかったタクミ。「家族に紹介したいし、ぜひもう一度飲みに行こな」。別れ際、そういいながら何度も何度も握手をしてきたタクミ。「どんなに荒れている子も心の中では必ず、まっとうな人間になりたいと願っている」。この言葉の重みを再確認させられた同窓会だった。
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- 明治図書