著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
語彙力アップは「ことばって面白い!」から
国語学会評議員甲斐 睦朗
2005/7/8 掲載
 子どもたちの国語力の低下が話題になっています。今回は『ことばの力を身につけるおもしろ体験ワーク』を監修された甲斐睦朗先生に、本書に関するお話を伺いました。

甲斐 睦朗かい むつろう

愛知教育大学教授、国立国語研究所言語教育研究部長、同研究所日本語教育センター長を経て国立国語研究所長。平成17年3月、任期満了退任。
国語学会評議員。NHK放送研修センター理事。表現学会理事。
【著書】 源氏物語の文章と表現(桜楓社)/文学教材の読み方と実際(明治図書)/わかむらさき−源氏物語の源流を求めて−(明治書院)/日本語基本語彙−文献解題と研究−国立国語研究所報告116(明治書院) ほか多数。

―「おもしろ体験」とある通り、思わず取り組みたくなるワークが満載ですね。今回、「ことばの面白さを体験する」ということに着目されたねらいをお聞かせ下さい。

 ことばは本来、面白いものです。知れば知るほど子どもの知的な好奇心を呼び起こすことになるのです。本書の学習を通してことばに関心を抱くようになれば、そのことが、本格的な国語学習への意欲づけになるわけです。

―ひとつひとつのワークに、「こんなところで使えるおもしろ学習」、「おもしろ発展学習」などの項目が立てられており、具体的な活用の場がイメージできる内容構成になっています。ほかにも、実際に授業をされる先生方への心配りが随所に感じられますが、本書の構成の特徴と、完成までの経緯をお聞かせ下さい。

 近年出版されている日本語の図書には、「恥をかかない」「間違いやすい」などと人の弱点を強調する書名が目立ちます。それは間違っています。ことばには、こういう面白い問題があるんだよという具体例を示すことよって知的な好奇心を高めたいものです。
 愛知県豊田市の国語研究のグループが各自の教室の体験を出し合うことで、こういう具体的に活用できる内容に作り上げることができました。本書は共同作業でしか得られない成果だといえそうです。

―近年、「ことばが乱れている」という調査結果や発言をよく耳にします。今、子どもたちのことばの力の育成が強く求められていますが、国語の授業では、どのような指導をすればよいのでしょうか。

 「ことばの乱れ」という判断は、むずかしい問題です。地域差の問題があります。年齢差、性差などの問題もあります。程度副詞のように10年、20年で変化するものもあります。例えば「ら抜きことば」は、共通語としては使わないということになっていますが、生活語として普通に使われている地域が少なくありません。
 そこで、国語の授業では、ことばの多様性に関心をもたせること、ことばには様々な切り口があることに気付かせることが大切だと思います。同時に読書を進めることによって、豊かな国語表現を体得させることが期待されます。

―その中にあって、本書の効果的な活用法をお聞かせ下さい。

 本書は、それぞれ見開き2ページのワークシートを用意しています。それぞれの課題には、正答だけでなく、学習者の実態や学習目的などについても丁寧に述べています。これを自らの学級にあわせて修正することが大切でしょう。その上で、応用的な活用にまで進んでいただければ、より効果的な指導ができると思っています。

―最後に、全国の先生方へのメッセージをお願いいたします。

 国語の授業は、「小学校指導書 国語編」によって、指導内容も取り組み方も定められています。ところが、「うちの学校は、特に音読に力を入れている、総合的な学習の時間も使って校舎にあふれる音読を活発に指導したい」などと、授業を私物化している学校があるようです。
 本来の国語力は、本書で取り上げている各種の言語事項的な能力を基盤にすえる必要があります。文化審議会は、平成16年2月に、ことばについての知識や情報を基盤として育てる、その上部に4領域の言語活動を掲げる、それらの活動の中心に「考える」「想像する」行為をおくという国語力の構造図を答申しています。
 本書は、その基盤作りに役立つだけでなく、4領域の活動の中核で働く「考える」素材を提供していると自負しております。

(構成:及川)

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