著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「1%の特殊教育から1割の特別支援教育へ」
東京学芸大学教授上野 一彦
2005/9/9 掲載
 今回は、「LD&ADHD」誌の編集長である上野一彦先生に、緒方明子先生、柘植雅義先生、松村茂治先生とともに共同編集され、早くも重版になった『特別支援教育基本用語100』についてお伺いしました。

上野 一彦うえの かずひこ

東京大学教育学部、同大学院を修了後、東京学芸大学講師を経て、現在、東京学芸大学教授。文部科学省「特別支援教育の在り方に関する調査研究」などの協力者会議委員を務める。日本LD学会会長。学校心理士、LD教育士スーパーバイザー。「LD&ADHD」誌編集長。

―特別支援教育の中核となる基本用語を、100語厳選した本書ですが、どのような方に、どのような場面で使ってもらえるとよいと思われますか?

 全国で特別支援教育が展開されている現在、学校教育関係者(管理職・特別支援教育コーディネーター・養護教諭・一般教諭)だけでなく、その支援と深く関わる保護者や専門家むけに重要かつ必要な基本知識のエッセンスを意識して書きました。
 校内委員会・専門家チーム・教育相談などの様々な場面で、用語について正確に理解したいときや、ふと疑問を抱いたとき、是非使っていただきたいのです。特に特別支援教育コーディネーターの方には必携していただければと思います。そのために用語を厳選し、装丁もポータブルに、また辞書的な使いやすさに配慮いたしました。

―基本用語は教育だけでなく、心理学、医学、福祉の関連領域にまで広げたとのことで、より重要な語は頁を割いて詳しく説明するなどの工夫がされています。本書の使いやすさのポイントは?

 これからの特別支援教育は学校教育だけでなく心理学・医療・福祉・労働などの連携が大切です。そうしたことを意識し、相互に関係する大切な用語を領域的なバランスに考慮しながら100厳選しました。またその重要度を考え、見開き2頁、1頁、半頁の3レベルに分け、50音順に引けるように、また、そこから関連する用語もたどることができるように工夫しました。頁ごとに配列し、見やすく並べたのも、できるだけ見やすく・使いやすくという意図からです。

―本書では基本用語の解説だけでなく、「特別支援教育をより深く理解するためのQ&A」としてQAと簡単なポイント部分とがまとめて収録されています。このスタイルにした一番の理由は何でしょう?

 Q&Aは、特別支援教育に関して、担任の先生やコーディネーター、保護者の方から私どもに寄せられてきたたくさんの質問を整理し、代表的なQに対してできるだけさまざまな立場を想定して、具体的に回答するように努力しました。
 回答は一つの例なので、その趣旨をポイントとして示しました。この回答をヒントとしてそれぞれの子どもさんや保護者、いろいろな状況に合わせ、さらに工夫して適切にお答えいただければいただければと思います。

―本書でも述べられていますが、特別支援教育は今後どのように展開していくのが理想でしょうか? 上野先生のお考えをお聞かせください。

 特別支援教育は今、始まったばかりです。対象となる児童生徒から見れば「1%の特殊教育から1割の特別支援教育へ」の転換です。これまでの特殊教育のよい実践はできるだけ継続しながら、その何倍も通常の学級で苦しんできたLDやADHD等の子どもたちにも支援の光を広げていかなければなりません。
 制度の壁があって、分かっていてもできないことがたくさんあったかもしれません。制度に子どもを合わせるのではなく、子どもたちに合った制度を作っていくことが大切です。そのためには子どもや保護者の立場、目線に立った弾力性を教育関係者はもたなければなりません。
 さまざまな教育支援の姿を、自分たちの場から創っていく、そうした気概こそ、一人ひとりの子どものニーズに応える教育の実践です。
 方向性を見失わないために理念をもって、子どもの成長する姿を確かめながら一歩一歩進んでいく、そうした展開を理想とします。

―最後に、特殊教育から特別支援教育への転換は、通常の教育と特殊教育の垣根を低くすること、また取り外すことでもあるとも思いますが、通常の学級において特別支援教育を実践する先生方へ一言お願いします。

 今、学校では、学力の低下、いじめ、不登校、授業崩壊、そしてこのLD・ADHD等の子どもたちへの特別支援とさまざまな課題が山積しています。特別支援教育は一人ひとりの子どものニーズを大切にするこれからの学校教育を考えていく鍵となるものです。
 一人の先生の悩み・苦しみを学級の中だけで囲い込まず、先生方共通の課題として理解し、対応していくことが求められているのです。学校を子どもたちの人間形成の大切な舞台として機能させていくためには、多くの課題をばらばらに対応するのではなく、その背景に共通するものをしっかりと見つめていかなければなりません。
 特別支援教育はこうした明日の学校を創っていく大きなきっかけであるということをすべての先生方に理解していただきたいのです。

(構成:木山)

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