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はい。第1に、これはどんな授業にも言えることですが、「その単元で付けたい力は何か」を常に明確にすることです。第2には、「文学の楽しさを味わうこと」を通してこそ、そうした付けたい力を付けられると言うことです。これはごく当たり前のことだと受け止められるかもしれませんが、実際には「文学の楽しさを味わう」学習ではなく、「教材文を読み取らされる」学習になってしまっている状況も多く見られます。主体的に読むことの重要性は誰もが指摘するところですが、いよいよ具体的な局面になると、「この教材をこう読み取らせねば読んだことにはならない」といった狭い能力観に陥りやすかったのです。そこで本書では、まず「子供たちにとって必要な、文学の読みの能力」を明らかにすることに意を注ぎました。
こうした状況はまだまだ見られます。もしも今までの授業で、単元が終わった後に、子供たちがもっと同一作家や同じテーマの本に手を伸ばす姿がたくさん見られるのであれば、従来の指導も有効だと思います。しかし、教材文を細かく読み取らせる指導の結果、とりわけ読むことが苦手な子供たちは、もっと読むようになったでしょうか。
文学を読むことの本質を踏まえたとき、文学の授業づくりの在り方は、端的に言えば、「自ら本に手を伸ばす」ことができるように、多様な作品に触れることのできる読書活動をねらいに応じて展開することが基本であると言えるでしょう。
授業づくりに教材研究が欠かせないのは言うまでもありません。その際、文学の授業のための教材研究対象は、大きく次のように分けられるでしょう。
@教材本文の研究
A言語活動自体の教材研究
B関連図書の選定
教材研究と言えば、従来は@だけのイメージが強かったのではないでしょうか。教材本文の研究が必要不可欠であることはもちろんですが、言語活動の充実の基盤をなす国語科においては、それだけでは足りません。AやBも極めて重要になってきます。
その際、やみくもに教材研究の範囲を広げなければならないのではなく、単元の指導のねらいに応じた教材研究を、重点的に行うこととなります。こうした教材研究によってこそ、当該単元の指導のねらいを確実に実現する単元を貫く言語活動を位置付けることができるのです。
本書において、1つの作品について、異なる2つの言語活動の事例を提案しているねらいもそこにあります。国語科ではつい「この教材はこう教える」といった意識が先行しがちです。しかし教材ありきではなく、指導のねらいや子供たちの実態を的確に踏まえて単元を構成していくという、授業づくりのプロセスを示したいと考えました。つまり、教材に合わせて単元を貫く言語活動を設定するのではなく、付けたい力に応じて単元を貫く言語活動を設定しつつ、教材の特徴を引き出したり、並行読書材を選定したりすることを重視するのです。
最大のポイントは、やはり当該単元で付けたい力を見極めることです。例えば小学校低学年で、音読の能力を重点とする場合と、自分の経験と文章の内容を結び付けて読む能力を重点とする場合とでは、教材本文の分析の視点も違いますし、当然、選定する言語活動も異なってくるでしょう。
「C読むこと」のアの指導事項に示す音読の能力育成を重点的にねらうならば、教材本文も、声に出して読む場合の特徴を押さえることとなりますし、単元を貫く言語活動は、例えば音読発表会など、音読の能力を伸ばすために最適なものを選定することとなります。
一方「C読むこと」の「文章の内容と自分の経験とを結び付けて」読む能力を育成する場合は、子供たちが自分の体験と結び付けやすいところがどこかといった視点で教材研究を重点化することとなりますし、「作品の大好きなところを、自分の経験と結び付けて理由付けして紹介する」といった言語活動を選定することなども考えられます。
これまで述べてきたように、並行読書材も、ねらいに応じて意図的に選定する必要があります。例えば音読の能力育成を重点的にねらう単元では、リズムや言葉の響き、繰り返しのおもしろさなどを観点に選定することが効果的です。
「文章の内容と自分の経験とを結び付けて」読む能力を育成する場合は、自分の体験と重ねやすい内容の本を選んだり、読書体験を生かしやすいシリーズ作品を選んだりすることが考えられます。
しかし実際には、全ての単元でこうした適切な選書をすることはなかなか難しいことです。代表的な教材の典型的な選書例を示すことで、授業改善に取り組む読者の皆さんの一助となればと願っています。
文学の授業は、国語の授業の中でも非常に魅力的なものでしょう。しかし同時に、何をどのように教えればよいか分からない、どんな授業づくりをイメージしたらいいか迷っているという方々もまた多いのではないでしょうか。本書は、学習指導要領・国語の趣旨を実現する授業の理論とモデルを提示することを目指して編んだものです。単元を貫く言語活動を位置付けた文学の授業づくりを、自信をもって進めていただけるよう、また、一人でも多くの子供が「読むのが楽しい」「こんなふうに読んだんだよ」「もっと読みたい」と思えるような授業づくりを進めていただけるよう、是非本書を手に取っていただきたいと願っています。