- 著者インタビュー
- 算数・数学
書き終わった板書が、動画のように動くことはありません。しかし、色づかいやレイアウトを工夫することで、授業の流れをわかりやすく、動きがあるように見せることは可能です。本書に示したように、見やすい色と見難い色を組み合わせて使う、手順を示す番号を振っておく、などの工夫で、そのまま生徒がノートをとったとしても、後で見直したとき、授業のライブ感がよみがえってきます。
「自分は何がわからなくて、それをどう伝えたらよいか」ということが整理されていないと、本当に聞きたいことが教師に伝わらず、答えてもらっても何となく消化不良気味になってしまいます。
そこで、カウンセリングのように、教師が質問に答える前に生徒の質問内容を繰り返してみて、「こういう質問なんだね」という確認をとると、生徒の表情も明るくなります。教師も過不足ない答えを返せますから、その後も安心して生徒は教師のところへ質問に来られるでしょう。
じっとしていることが不可能だから多動傾向と言われるわけです。対応の仕方の発想を変えないと、教師が疲弊してしまいます。ポイントは、生徒が「動いてもよい時間」をつくることです。
よく、英語や体育の時間は多動傾向が気にならない、という話を耳にします。例えば英語の授業では、集中力が切れてくる授業開始から20〜30分ぐらいのタイミングでコミュニケーションの練習などで立ち歩いてもよい時間があるので、その間に集中力が回復するというわけです。数学の授業でも、自由に発言したり、立ち歩いたりする時間をつくることがおすすめです。
テストは公平に行われなければいけません。ただ、何をもって公平とするのかは、よく考える必要があります。
例えば、「入力→統合・処理→出力」という認知処理過程において、そのテストで評価する目的は何なのかを考える、ということがあります。本書でも触れたとおり、数学では、入力段階や出力段階より、統合・処理段階の力を特に評価するべきだと私は考えています。
この点を踏まえて、読字障害で入力に時間がかかる生徒に問題文を音読して聞かせる、書字障害で出力に時間がかかる生徒に口頭試問をする、といった対応をして、統合・処理にかける時間を十分にとってあげることで、こういった生徒の数学の力をより適切に評価できます。
様々な特性をもつ生徒が通常学級に存在する現状において、「こうすれば必ずうまくいく」というハウツーを見いだすことは難しく、私自身そのようなものは存在しないと考えています。
しかし、そういった生徒を巻き込みながら授業をつくっていくうえで私が心がけていることや着眼点を、先行研究に基づいて書くことができましたので、先生方が指導の手がかりやアイデアを欲するときには大いに役立てていただけるのではないかと思っています。
教育的支援に関する研究は日々進化していますので、皆様が本書をさらに一歩進めた新たな知見を付け加えてくださるとうれしいです。