著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
道徳教科化、どうしよう!?→そんな先生のための授業づくり入門書
立命館大学文学部准教授荒木 寿友
2017/2/17 掲載
 今回は荒木寿友先生に、新刊『ゼロから学べる道徳科授業づくり』について伺いました。

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学文学部准教授(2017年度より立命館大学大学院教職研究科准教授)。NPO法人EN Lab.代表理事。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

―ゼロから学べるシリーズ、今回は道徳科編ですね。道徳って、教科になるのですよね?

 そうなんです。これまでは「道徳の時間」として扱われていたんですが、ついに道徳が格上げされて「特別の教科」になることになりました。以前から教科にしようという議論はあったのですが、深刻ないじめ問題が後を絶たないことから、子どもたちが安心して学校生活を送れるように、道徳教育が先頭に立って取り組んでいこうとする決意の表れではないかと思います。あと、これまで年に35回、実施回数の上では道徳の授業をおこなっていたとしても、その取り組みが十分かといえばそうでもないということが、調査の結果明らかになってきたことも、教科化の背後にはあると思います。そうそう、これまで道徳の時間に使われていたテキストって副読本っていうんです。教科になったので、これからは教科書が使われることになりますね。

―ということは、これまで以上にきちんと道徳の授業をしないといけないということですね! 心が温まるお話とか、切ないお話を心静かに読むのですよね。そうそう、某教育系テレビ番組を見るのも、道徳の時間の楽しみでした〜!

 あら、やっぱりそんな道徳の授業を受けていたんですね(笑)。まぁ私も、個人的には心温まるお話とか嫌いではないんですけど、これからの道徳の授業はちょっと方向性が変わってくるんです。これまでは読み物資料を読んで、「私も主人公みたいになりたいです」というような感想を言って終わりという「読む道徳」が多かったのですが、これからは「そもそも正しいことって何だ?」とか、「正直にすることがいいのは分かっているけど、なぜそうできない時もあるんだろう?」といったことを考えたり、みんなで議論したりする道徳に変わってくるんです。いわゆる「考え議論する道徳」への転換です。決まり切ったことを言わせるのではなく、答えが分からないことを他者とじっくりと考えて、その中で道徳性を育んでいこうというのが、道徳の授業の大きなねらいになります。ちなみに、某教育系テレビも、最近は視聴者を考えさせる構成になってますよ〜。

―え? 私の知っている「道徳」と違う…。これまでと同じようにやればよいというわけではないのですね。授業をするうえで気をつけなければいけないポイントなどはありますか?

 あっ、先生方の名誉のために言っておきますが、これまでも子どもたちに考えさせるような道徳の授業を展開していた先生ももちろんいます! これからの道徳授業のポイントは、子どもたちがどれだけ本気で悩んで考えるかということに尽きると思います。これまでの道徳の授業って、「こう言えばいいんでしょ」というような模範的な答えが子どもたちに伝わってしまっていたんですよね。それだと、子どもたちって先生に気に入られるような答えを当てにいってただけで、道徳的価値そのものについてはあまり考えていないんです。道徳的価値についていろいろな方向から多面的・多角的に考えるための問いを準備できるか、それが大きな鍵を握ると思います。

―そういえば、教科になるのであれば、評価のことも外せませんよね。◎○△がつくのですか?

 つかないですよ〜。「君はウソを時々つくから正直は△ね」って嫌じゃないですか(笑)。「荒木は夜更かしをよくするから節度・節制は△ね」とか言われたら、分かっているだけにへこみます(笑)。 そもそも多面的に道徳的価値について考えるはずの道徳なのに、一面的な道徳の見方で子どもを評価することにつながりますしね。道徳については、これまでも数値による評価はおこなわないというのが前提になっていたので、これからもその方針は変わりません。道徳科では、誰かと比べてその子を評価するのではなく、その子自身がどう変化したのかということを、その子が勇気づけられるような、励みになるような、よいところに特化して記述で評価することになっています。こういうのを「個人内評価」っていいます。そのためには、ポートフォリオなどを用いて、子どもたちの変化を継続的に残しておく必要がありますね。

―詳しくは、本書で!ということですね。これから道徳授業に力を入れてやってみたいな、とお考えの読者の先生方に向けてメッセージをお願いします!

 道徳ってどこか敷居が高くて、なんだか難しくて、と捉えている先生も多いかと思います。でも、実際に子どもたちがあーだこーだと考える道徳の授業を経験すると、その虜になっている先生もたくさんいます。何より、子どもたちを見る目が変わってきます。教師が考える望ましさを子どもたちに植え付けてやろうという見方ではなく、子どもたちはどう考えているんだろうというような、子どもたちの内側にあるものを引き出す努力に変わるんですよね。そしてその姿勢が、他の教育活動においても子どもたちの主体性を引き出すような取り組みに変わってくるんです!あとは、すぐに結果を求めないことですね。気長にじっくり、ゆっくりとやってもらえればと思います。

(構成:林)
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