著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
全ての学校で合理的配慮の実現を
岐阜大学大学院教育学研究科准教授坂本 裕
2017/3/17 掲載
 今回は坂本 裕先生に、新刊『合理的配慮をつなぐ個別移行支援カルテ』について伺いました。

坂本 裕さかもと ゆたか

岐阜大学大学院教育学研究科准教授、博士(文学)。臨床心理士、ガイダンスカウンセラー、上級教育カウンセラー。
主な著書・編著書に、『新訂 特別支援学級はじめの一歩』(明治図書)、『遅れのある子どもの身辺処理支援ブック』(明治図書)などがある。

―本書は、発達障害児の移行期(就学、進学)の支援について、その理論と各移行期にそのまま使用できるカルテのフォームと手引き、見本を収録したかなり実用的な書籍になっていますが、まず本書のねらいと読み方について教えてください。

 平成19年4月から特別支援教育となり、全ての学校で『個への対応』が実施され、個別の教育支援計画の作成や、学校間移行時の引継ぎが欠くことのできないものとなりました。しかし、10年が経過した今年、総務省から文部科学省に学校間移行の実施などに関する勧告が示されました。そうした状況の改善への一役になればと、教育委員会・学校・園がすぐに使用できるカルテのフォーム、そして、手引き、見本を収録した本書を企画しました。

―本書に収録されている「個別移行支援カルテ」は、教員1,363名(幼稚園等教員173名、小学校教員408名、中学校教員302名、高等学校教員238名、特別支援学校教員242名)を対象とした質問紙調査の結果を心理統計の手法で分析した結果から設定したものになっていますが、なぜこうした調査を行い、またそこから見えてきたものはどのようなことでしょうか。

 要録や通知表は教育活動の結果を伝える機能しかないため、移行先では役に立たない情報とされがちでした。そこで、本書では移行先の先生方が必要とする教育支援情報の分析を行うところから始めました。その結果は、当然ではありますが、先生方が担当する教育の場で重視する教育活動に直結する教育支援情報を必要としていることが明らかになりました。そして、幼稚園等教員と小学校教員、小学校教員と中学校教員の間には意識のずれがあり、そのずれを意識してカルテを作成することが不可欠であることがわかりました。

―本書は特別支援教育を専門としない先生にもわかりやすくおまとめいただいていますが、「合理的配慮」を必要とする児童生徒の学習活動を支援していく体制づくりにおいては、何が大切でしょうか。

 障害者差別禁止法の施行で、全ての営みに「合理的配慮」の実施が不可欠となりました。この実施に当たっては、配慮を必要とする子どもとその保護者の思いや願いを学校が真摯に受け止めることが第一歩となります。そして、受け止めた思いや願いを叶えるために、その子が持てる力を精いっぱい発揮できるように支え、その教育支援情報を引き継いでいく体制がとても重要になります。

―本書の末尾には、テーマに関わる様々な資料が収録されていますが、今後、支援を必要とする子どもを取り巻く環境はどのように変わっていくでしょうか。また、変わっていくべきでしょうか。

 いずれの資料も、その根底には、学校がどの子にとっても取り組みたいことに精いっぱい取り組める場となることを求める思いが流れています。全ての学校は、「合理的配慮」への確実な対応によって、『子どもたちが今日に満足し,明日に期待する場』となることが強く望まれているのです。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 「合理的配慮」は、障がいのある幼児児童生徒だけではなく、教師の支えを欲している全ての幼児児童生徒に行われなければなりません。本書をとおして、多くの先生方にこうした新しい波を感じ取っていただき、子どもたちとの学校生活へ心新たに向かっていただけるきっかけづくりになれば幸いです。

(構成:及川)

好評シリーズ
コメントの受付は終了しました。