著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
教師・生徒がともに学び豊かになる美術科授業へ!
北翔大学教育文化学部教育学科教授山崎 正明
2022/4/26 掲載
今回は山崎正明先生に、新刊『中学校美術 指導スキル大全』について伺いました。

山崎 正明やまざき まさあき

1957年北海道札幌市生まれ。埼玉県与野市の中学校での講師を1年、その後北海道石狩管内の中学校教員として32年間勤め、2014年より北翔大学に勤務。教育文化学部教育学科教授として教員養成に携わる。美術教育については幼児から小学生・中学生・高校生・大学生・市民と幅広く捉え、その年齢だからこその学びを大切に考えている。2歳児から大人までを対象に出前保育や出前授業、各種ワークショップを実践中。中学校教員時代は北海道造形教育連盟、石狩管内教育研究会図工美術部会、美術による学び研究会などで活動するほか、2004年から WEBサイト「美術と自然と教育と」で発信を続けている。また教科存続の危機を感じ2012年より「中学校美術Q&A」という研究会を全国各地で18回開催した。

―『中学校美術 指導スキル大全』というタイトルですが、本書のコンセプト・どんな先生に読んで欲しいかを教えてください。

 「指導スキル」という言葉から、この題材をこんな方法でやると生徒はこんな作品をつくるようになります、というようなことをイメージされやすいかもしれません。しかし、本書では生徒の資質・能力を高めるために授業をどうつくっていくべきかをという「授業課題」をスキル項目としました。スキル項目は授業計画から始まり、各領域・分野の基本的なことをおさえた上で、授業の流れに沿って書かれています。さらに、学びを豊かにする環境構成など日頃から大事にすべき事や美術の授業を社会との関わりでどう発展させていくべきかもスキル項目としました。一人でも多くの先生に、お読みいただければと思います。また免許外で美術を担当する先生も、美術教育を担う大事な先生です。教科書と指導書、学習指導要領とともにぜひ本書をご活用ください。

―中学生という多感な時期、山崎先生は美術を通して子どもたちにどんな力を養ってほしいと考えていますか?

 中学生という時期は当たり前のことですが、人生で一度きりです。13歳から15歳の多感な3年間、「思春期」という難しい時期との捉え方もあり、「反抗期」とも呼ばれますが、それは裏を返せば、自分の意志でよりよく生きていきたいという意志の表れでもあります。誰だってよりよく生きたいし、幸せになりたい、そのことを信じ、心身共に大きく成長する中学生に関わっていきたいです。そんな彼らには、感性をより豊かに磨き、様々な課題を他者と共に解決し、想像力を働かせながらより良い未来を創造していける大人になっていってほしいと思います。

―「題材を生徒にとって『自分ごと』にする』ということを本書通して執筆者の先生方の多くが強く訴えられているように思います。多種多様な題材を、様々なバックグラウンドをもつ生徒たちがより強く「自分ごと」として捉えられるように教師がおさえておくべき最も重要なポイントを、ずばり教えてください。

 教師が題材を設定したときに、生徒は、この題材(課題)を「どう捉え、どう解決するだろう、どう発想するだろう?」と教師がワクワクしているか、そのような題材になっているか、それが最も重要なポイントです。
 ある先生が、公開授業で生徒がしっかり取り組めるかハラハラしていたそうですが、授業研究に取り組んでいくうちにハラハラがワクワクに変わったとしみじみと語ってくれました。ワクワクは生徒のよさや可能性がどう発揮されるかを楽しみにしているからこその気持ちです。生徒が教師から出された課題に沿ってやらされている限りはハラハラです。先生がワクワクして生徒と接していると生徒の意欲も高まります。このような教室では自他を認め合い、学び合う雰囲気になっていきます。
 生徒が題材を自分ごとしている時は、教師のさせたいことが、生徒のやりたいことに変わった時です。つまり、その題材が与えられたものではなく、自分のやりたいことになっているということです。自分がやりたからこそ大きな力が発揮されます。育みたい資質・能力を踏まえたうえで、どうしたら生徒が題材を自分ごととして捉えられるのか生徒の視点から立って、教師も幅広い視点で題材を一生懸命考えることが大切です。そのことは、指導案の「生徒の実態(興味・関心やよさや可能性)」と「題材設定の理由」にあらわれてきます。

―GIGAスクール構想の実現により、全国の中学校で「1人1台端末」が行きわたりました。本書でも「ICT活用」の項目で関連スキルを紹介いただいていますが、ここでも少し、ICTの美術授業での活かし方について教えて下さい。

 ICTは便利なツールです。例えば目の前の課題に対して、必要な情報を素早く集め、それを組み合わせて答えを出すというような場合は短時間でもそれなりの成果は出せます。しかしそこに留まっていてはもったいないです。やがてそれはAIに取って代わられることになるでしょうから。
 各教科でICTは様々な使われ方がされると思います。たとえば導入(発想・構想)・展開(表現・鑑賞)・評価(振り返り)と様々な場での活用が期待できます。さらに、美術科では特に想像力や創造力を発揮させるための表現のツールとしての使い方が大切になってきます。今後開発されていくアプリなどにも注目されていくでしょう。一方で新しさ面白さへの興味関心だけではなく、ICT活用が目的化しないように気を付けていきましょう。

―最後に、新年度美術授業に意気込む読者の先生方に向けてメッセージをお願いします!

 目の前の生徒たちのよさや可能性をたくさん見つけられる先生は、授業をすることが面白くなります。発見が多いからです。美術の作品を、思考や思いの痕跡だと捉えると見えてくることも違ってきます。そのようなことを心がけてみることをお勧めします。
 また、よりよい授業をするためにも、生徒がその授業を通して感じたことや考えたことなどを聞いてみるとよいでしょう。授業改善のヒントになります。生徒の言葉に必ずコメントを入れて返すとなると大変になりますから、次の授業の最初に何人かの生徒の言葉に先生の考えをコメントするとよいでしょう。生徒のよさに触れてから授業がはじまることになります。信頼関係も生まれてきます。なお、生徒へのコメントは、指導でもあります。卒業時、あるいは年度末には、こうなっていてほしいという生徒の学びの姿を目標として指導していくことをお勧めします。
 さて、最後に若い先生へ一言。もしかしたら自分は教師に向いていないかもと思われることもあるかもしれません。しかし、そんな時は「教師が変われば生徒も変わる」という言葉があることを思い出してください。この『中学校美術 指導スキル大全』を執筆した先生達も、よりよい授業を目指して「自分を」「授業を」変えてきました。授業を改善すると、生徒の学びが一層豊かになることがわかってくるからです。教師は面白くて、やりがいのある仕事です。

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(構成:中野)
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