「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方
算数授業における「個別最適な学び」を、非認知能力、GIGAスクール、自己調整学習…など重要なキーワードから紐解きます。
「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方(6)
個別最適な学びを支える「協働的な学び」
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2021/11/25 掲載

 「個別最適な学び」は、決して子どもが1人で行うものではありません。問題解決をするときに1人で考えることもあれば、わからなければまわりの人と一緒に考えることもあるのが、個別最適な学びなのです。
 1人で考えることも、まわりの人と一緒の考えることも、学習形態自体を子ども自身が選択することに意味があります。そのためには、いつでも、だれとでも学べる学習環境が教室の中に存在していることが必要です。まさに、「協働的な学び」が保証されている必要があるのです。
 では、協働的な学びが保証されている授業とは、どんなものでしょうか。また、そのためには、どんなことを意識する必要があるのでしょうか。

個別最適な学びは協働的な学びの中にある

 個別最適な学びと協働的な学びの関係は、以下のような図で見るとイメージしやすいと考えています。協働的な学びができる環境が前提となり、個別最適な学びが成立するのです。

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 2021年1月26日に出された、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」(中央教育審議会)には、次のように示されています。

各学校においては、教科等の特質に応じ、地域・学校や児童生徒の実情を踏まえながら、授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、更にその成果を 「個別最適な学び」に還元するなど「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し 、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である。

 この一文の中にある「『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実し」という言葉こそ重要だと考えます。個別最適な学びと協働的な学びは、「両輪」ではなく「一体的」に充実させるものなのです。「これは個別最適な学び」「これは協働的な学び」と明確に切り離せるものではなく、一体となって問題を解決していく姿が望まれるということです。

協働的な学びとは何か

 協働的な学びというと、子ども同士が話し合ったり、調べたことをまとめたりする姿が思い浮かぶと思います。それはそれで正しいのですが、「協働的な学びってそもそも何?」と聞かれると、説明に困るのではないでしょうか。
 私は、協働的な学びとは、問題を自分事と捉え、その問題を解決するために、柔軟にまわりの人とかかわる学びだと考えています。

 ただまわりの人と一緒に学習するのではなく、その前に、一人ひとりの子どもが問題を自分事として捉えなければ、協働的な学びにはならないと考えています。例えば、「解き方がわからないから隣の人に聞いてみよう」と思ったとき、本当に解き方を知りたいと思っている子どもは、隣の人の解き方を聞いた後、「どうしてそうなるの?」と問い返したり、自分でもやり直してみたりするでしょう。一方、ただ答えが出ればよいと思っている子どもは、聞いて「すごいねぇ」と言って、解き方だけ覚えて終わってしまうでしょう。ですから、協働的な学びは、子ども自身が問題を自分事にすることから始まるのです。
 そして、同じ問題に取り組んでいる子ども同士が、問題解決という共通の目的を達成するために、柔軟にかかわり合うのが協働的な学びなのです。まずは自分のまわりにいる人と話してみて問題解決に取り組みます。しかし、まわりの人たちだけでは解決できなければ、他の人にも話を聞いたり、一緒に考えたりします。
 この際のポイントは、だれとでも協力して問題を解決するということです。仲のいい人、話しやすい人だけでなく、問題を共有している人であれば、だれとでもかかわるのです。そうすることによって、多様な考えに触れることもでき、問題を多面的に解決することにつながります。
 以上のことを踏まえると、協働的な学びのイメージは下のような図だと考えています。

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 真ん中に問題があり、一人ひとりの子どもが問題と向き合っています。そして、共通の問題を解決するという目的に向かって、子どもがお互い協力し合うのです。
 授業においては、この図のように取り組んでいる子どもの集団がいくつもあり、集団同士が影響し合っています。自分たちの集団だけでは解決できなかったり、解決したとしても解決方法に自信がなければ、他の集団の解決方法と比べたりします。 
 時に、他の集団が話していることが自然と耳に入り、その情報を基に新しい考え方を発見したり、問題を発展させたりすることもあります。問題解決という共通の目的を基にして、子どもが柔軟にまわりの人との関係を結び直していくのです。

算数における協働的な学びの効果的な姿

 ここまで、抽象的な話が続いてきましたが、ここからは、実際の授業における、協働的な学びをする子どもの姿を紹介したいと思います。
 円の面積の公式を一斉授業でつくり、円の面積の公式を活用する問題を考える個別学習を行いました。授業前半で、教科書に掲載されている問題を3問解き、お互いの解き方や共通する大切な考え方をまわりの人たちと共有した後、授業後半では、子どもは授業前半で解いた問題を発展させ、いろいろな問題をつくっていました。
 最初、同じ班の人とつくった問題を紹介し合い、お互いに解いていました。その際の様子が下の写真です。

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 この後、他の班の子どもがグループチャットに投稿した問題を見たことで、この班の中の1人は、個人で問題に取り組むようになっていきました。投稿されたのは、下の写真の問題です。

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 1人で問題を解き始めた子どもは、試行錯誤しているうちに、円と円が重なったところの面積が求められないことに気づいていきました。すると、最初に話していたまわりの人ではなく、同じようにこの問題を解いていた他の人と話しながら、正三角形の面積の求め方がわかれば解けることに気づいていったのです。
 正三角形の面積を求めるためには、正三角形の高さがわからないと求められないので、どうすればよいか困っていました。そこで私から、三角関数というものがあることを少しだけ伝えました。もちろん「これは小学校で学習することではないから、知らなくてもいいんだよ」と伝えたうえでです。しかし、この子どもは、自分でインターネットを使って、三角関数について調べ、正三角形の高さを求めて計算していました。

 この子どもは、まずは自分のまわりの人とかかわりながら、授業前半で解いた問題について、解き方や共通する考え方を共有していきました。そして、問題を発展させるところまでまわりの人と一緒に行いました。
 グループチャットに投稿された他の班の人が考えた問題に興味をもったところから、個人での学習に切り替わりました。さらに、自分と同じ問題を解いている人とかかわりながら、解決の糸口を見つけていったのです。
 この一連の学習の中心には、常に問題があり、問題を解決しようと子どもが思考する姿があります。そして、遊ぶためや、世間話をするためではなく、問題解決のために人とかかわっています。問題解決のために人とかかわっているので、その場その場でかかわる人も柔軟に変わっていっていることがわかります。
 このように、問題を自分事と捉え、その問題を解決するために、柔軟にまわりの人とかかわる学びの姿を引き出すためにも、「今は個人で考えなさい」「では、今からはまわりの人と話し合いましょう」のように、学習形態を教師が固定せず、子どもが必要なときに必要な学習形態を取れるようにしておくことが大切です。

協働的な学びを実現するための教師の役割

 協働的な学びを実現するために、教師の役割は大きいと考えています。子どもに「自由に学習していいよ」と言っても、なかなかまわりの人と話し合ったり、協力して問題を解決しようとしたりしないのが現実です。
 そこで、協働的な学びを実現するための教師の役割として大切なことを、2つ述べたいと思います。

@考え方の共通点を考えたり、問題を発展させたりするという意識を育てる
 トピック的なおもしろい問題を毎日扱うのは難しいので、教科書に載っている問題で十分です。しかし、答えを出して終わりとせず、問題を解くときに使った考え方の共通点を考えさせたり、問題を発展させたりさせるのです(問題の発展のさせ方については、本連載の第4回参照)。そうすると、自然とお互いの考え方が知りたくなるし、どんな問題をつくったのかが気になるので、協働的な学びが起きやすくなります。

A心理的安全性を確保する
 エイミー・C・エドモンドソン(2014)は、心理的安全性を「関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる雰囲気をさす」と述べています。これが協働的な学びを実現するために必要なものであることは、授業をしたことがある人であれば想像がつくのではないかと思います。子どもが自由に発言したり、失敗が許されたりするクラスであれば、問題解決という目的のために、柔軟にだれとでも気軽にかかわることができるでしょう。クラスの中に心理的安全性を確保するのが教師の役割だということです。

【参考・引用文献】
・中央教育審議会(2021)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」pp.18-19
・エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳(2014)『チームが機能するとはどういうことか』(英治出版)、p.12、153、157-158

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 算数カフェ(和泉康彦)
    • 2021/11/26 14:58:57
    協同的学びと個別最適化は一体という指摘には同感しますが、個別の違いをどう乗り越えるかということが重要だと思いますね。問題のなかみと形式が重要だと考えています。加固先生は個別の違いを乗り越えるためのキーワードは何だと考えていらっしゃるのでしょうか?そのことを知りたいと思いました。
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