算数科における「探究的な学習」では、子どもが数学的な見方・考え方を働かせて、深い学びを行うことが重要です。そのためには、既習で働かせた数学的な見方を振り返り、学習のつながりを意識できる学習環境を準備しておくことが大切です。
そのためには、時と場所を越えることができるICTを利用することが有効です。ICTを使うことで、学年や単元を越えて学習を振り返ることが可能になり、学習のつながりを意識した「探究的な学習」がしやすくなるのです。
数学的な見方の振り返りにおけるICT活用の有効性
これまでも再三述べてきた通り、算数科において重要なことは、数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を、一人一人の子どもが行えるようにすることです。それが、算数科における「主体的・対話的で深い学び」を実現している姿であり、算数科における「探究的な学習」をしている姿と言えるでしょう。
そのためには、算数科における「探究的な学習」において、一人一人の子どもが数学的な見方・考え方を働かせやすい学習環境を整えることが大切です。数学的な見方・考え方を働かせるためには、今まで働かせてきた数学的な見方・考え方を想起することが重要です。
既習の学習で働かせた数学的な見方を振り返る際、ノートを見返してもよいですが、過去の学習で働かせた数学的な見方を見つけ出すことはかなり難しいでしょう。前学年の学習内容となれば、前学年のノートが手元になければ見つけられません。それは現実的ではないでしょう。また、他の人が働かせた数学的な見方も確認したいものです。
このように考えると、既習の学習で働かせた数学的な見方を振り返るためには、いつでも既習の内容を瞬時に振り返ることのできるICTの活用がかなり有効だと考えられます。
3つの活用方法
私は、写真1のように、Teams(本校ではMicrosoft Teamsを使用しています。以降、Teams)上に「算数」「算数黒板写真」「算数着目ポイントまとめ」という3つのチャネルを用意しています。
写真1 Teamsに用意されているチャネル
3つのチャネルの使い方は以下の通りです。
「算数」チャネル
このチャネルは、主に個別学習中に働かせた数学的な見方を投稿する(問題の解き方や発展した問題を投稿する子どももいます)チャネルです。
子どもは、目の前の問題を解決することを優先しますので、「解いたら、着目ポイント(数学的な見方)を投稿してね」と声かけをしておきます。そうすることによって、「問題を解いて終わり」にせず、数学的な見方を意識できるようになります。
数学的な見方を自分で考えることができなかった子どもにとっては、他の人の投稿を見ながら「こういうことに着目すればいいのか」ということを理解することにもつながります。
このチャネルは、主に1単位時間の学習の中で数学的な見方を働かせやすくするためのチャネルです。
写真2 「算数」チャネルに投稿された、個別学習で比例の式を考えた際に子どもが働かせた数学的な見方
「算数黒板写真」チャネル
このチャネルは、毎時間の黒板を撮影した写真を投稿してあるチャネルです。算数科で用意してある3つのチャネルの中で、一番稼働率が高いのがこのチャネルです。
個別学習の時に問題を解くことができる子どもは多いのですが、「どんな数学的な見方を働かせたのか?」ということを自覚できる子どもは多くはありません。そこで、前回の学習で働かせた数学的な見方を振り返ることで、「前回と同じ数学的な見方を働かせたのかな?」「今までとは違う数学的な見方を働かせているのかな?」と考えることができるのです。
黒板というのは、色々な解き方や考え方が時系列で書かれているので、学習のエピソードが思い出しやすいです。そして、教師がある程度わかりやすくまとめていますし、働かせた数学的な見方を色チョークで残すといったこともしますので、ひと目で「前回の学習で働かせた数学的な見方はこれだな」と理解しやすいのです。
このチャネルは、主に単元内の数学的な見方のつながりを意識し、昨日と今日、今日と明日の学習のつながりを理解しやすくするためのチャネルです。
写真3 「算数黒板写真」チャネルに投稿された、比例・反比例の単元導入の一斉授業の黒板写真
「算数着目ポイントまとめ」チャネル
このチャネルは、既習の学習で働かせた数学的な見方を言語化したものを投稿してあるチャネルです。
数学的な見方を投稿するのは教師ですが、そのもとになるのは、一斉授業中に共有した数学的な見方や、個別学習中に「算数」チャネルに投稿された数学的な見方です。一斉授業中に共有した数学的な見方や、個別学習中に「算数」チャネルに投稿された数学的な見方を私が要約して言語化し、投稿しています。
このチャネルは、既習の学習とのつながりを意識するために重要な役割を担っています。特に、単元の導入場面においては、なくてはならないものです。
単元の導入においては、問題を解くことを通して、その単元を通して働かせる数学的な見方を顕在化させることが重要です。数学的な見方を顕在化するためには、目の前の学習と系統性のある既習の学習で働かせた数学的な見方を想起することが必要です。なぜなら、問題を解いて「こういう着目ポイントが使えたね」とするだけでは、既習の学習とのつながりが意識しづらいからです。できれば、「前の学習では〇〇という着目ポイントを使っていて、今回の学習でも同じ様に使えたから、もっと△△みたいなこともできるかもしれないよ!」と、統合的・発展的に考察して、自ら学習を進めることを期待したいのです。
このチャネルは、主に単元を越えた数学的な見方のつながりを意識し、学習のつながりを理解しやすくなるためのチャネルです。もちろん、単元内の学習のつながりを意識するためにも効果的です。
写真4 「算数着目ポイントまとめ」チャネルに投稿された、単元毎に働かせた数学的な見方の一覧
今回は、ICTを使って「こういう学習環境を設けると、数学的な見方を振り返りやすくなります」ということをご紹介しました。次回は、実践をご紹介します。