前回は、Teams(本校ではMicrosoft Teamsを使用しています。以降、Teams)上に「算数」「算数黒板写真」「算数着目ポイントまとめ」という3つのチャネルを用意していることをご紹介しました。今号では、それぞれのチャネルを子どもがどのように使っているのかをご紹介します。算数科におけるICTの使い方の方向性や可能性について考えるきっかけになればと考えています。
前号でご紹介した通りは、私はTeams(本校ではMicrosoft Teamsを使用しています。以降、Teams)上に「算数」「算数黒板写真」「算数着目ポイントまとめ」という3つのチャネルを用意しています。それぞれのチャネルを使った実践をご紹介します。実践は、6年生の「場合の数」です。
個別学習中の使い方
下の写真1は、3時間目に行った個別学習の際に、子どもが「算数」チャネルに投稿したものの1つです。扱った問題は「阿部さん、伊藤さん、宇田川さん、江川さんの4人でリレーチームを作りました。1人1回ずつ走ると、走る順番は何通りあるでしょうか」(並べ方)というものでした。
大切なことは、場合の数の問題を解くときに働かせた数学的な見方について書いているかどうかです。もちろん、解き方を書くことも大切ですが、自分の解き方を振り返って、「どんな数学的な見方を働かせていたのか?」ということを考えることはとても重要です。
この子どもは、「条件」「順番に考える」「基準を決める」という数学的な見方について書いています。これらの数学的な見方は、単元導入の1・2時間目で行った一斉授業において共有した数学的な見方です。大切なことは、それぞれの数学的な見方を、目の前の問題を解く際のどこで働かせていたのかを考えることです。この子どもは、どの数学的な見方を、どの解決場面で働かせていたのかも書いています。
写真1 場合の数の個別学習中に「算数」チャネルに投稿された子どものノート
しかし、ここまで書ける子どもばかりではありません。自分では書けなかった子ども、もしくは、書く内容が不十分だった子ども(数学的な見方だけを書いて、問題解決のどの場面で働かせていたのかを書いていない子ども)が、こういった投稿を見て、自分が働かせた数学的な見方を振り返ることにつながるのです。
先述の「条件」「順番に考える」「基準を決める」という数学的な見方は、単元導入の1・2時間目で行った一斉授業において共有した数学的な見方と述べましたが、一斉授業で共有したからといって、覚えている子どもばかりではありません。むしろ「あれっ、なんだっけ?」と思う子どもの方が多いでしょう。
そんなときは、「算数黒板写真」チャネルを見返せばよいのです。写真2は、「場合の数」の導入1時間目に行った一斉授業の際の板書の写真です。この板書には、赤チョークで数学的な見方が書かれているのがわかるでしょうか。板書の写真をICTを使って残すことも大切ですが、ポイントは、後で子どもが見返してもわかるような板書にしておくことです。色チョークの使い方も、工夫されるとよいのではないでしょうか。
写真2 「算数黒板写真」チャネルに投稿された「場合の数」の第1時の板書
単元末の振り返りにおける使い方
私は、単元末に単元全体の振り返りをする時間を1時間設けています。写真3は、ある子どもが「場合の数」の単元末に書いた振り返りです。これだけのことを1人で書ける子どもはなかなかいません。この子どもも、まわりの子どもと一緒に「こんなことが大事だったよねぇ」「どんなこと書いたか見せて」などと言いながら、お互いに書いたことを見せ合いながら書いています。そういった姿は、「協働的な学び」と言えるかもしれません。
「協働的な学び」をするためには、前提として、自分の考えをまとめる必要があります。そのためには、単元全体の学習を振り返る必要があります。そのときに、自分の記憶だけを頼りにして書き出すと、抜けが多くなってしまいます。そこで、多くの子どもが「算数黒板写真」と「算数着目ポイントまとめ」チャネルを見返しています。「算数」チャネルだと、情報量が多くて見返すのが大変なのです。ちなみに、「場合の数」の「算数着目ポイントまとめ」チャネルに投稿されている数学的な見方が、写真4です。
写真3 ある子どもが書いた「場合の数」の単元末の振り返り
写真4 「算数着目ポイントまとめ」チャネルに投稿した「場合の数」で働かせた数学的な見方
ICTを使って、みんなで学習した履歴を残しておくことで、これまで以上に多くの子どもが、過去の学習を振り返ったり、目の前の問題を解いたり、解決した問題を発展させたりすることがしやすくなると考えられます。
算数科におけるICT使用の方向性
算数科の本質とは、数学的な見方・考え方を働かせて学習を進めるすることだと考えていますが、問題を解決できるタイミングが人それぞれである以上、1単位時間の学習において、子どもが数学的な見方・考え方を働かせる場面が異なるのは当然です。よって、1単位時間の学習の中だけでICTの使い方を考えていても、算数科においてICT使用の成果を得るには不十分だと考えています。
1単位時間のICTを使った実践としては、解決方法をリアルタイムに共有したり、AIドリルを使用して各自で習熟を図ったりする実践があるでしょう。これからも1単位時間でのICTを使った実践の可能性を探っていくことは重要です。同時に、数学的な見方を顕在化させるための一斉授業でのICTの活用方法や、「算数着目ポイントまとめ」チャネルのような、単元全体や学年を越えた学習をつなげ、「次の学びにつなげる」ことを意識したICT使用の可能性を探っていくことが重要です。なぜなら、教育DXとは「個別に最適な学びや支援の実現に寄与することが期待される」(文部科学省、2024)ものであり、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」(デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省、2022)を実現するためのものだからです。
算数科であれば、ICTを使うことで、1人でも多くの子どもが算数科の本質に迫るような学習を行えるようにすることを目指すべきでしょう。算数科の振り返り場面においても、振り返りの仕方をアナログからデジタルに変えるだけでなく、1人でも多くの子どもが、数学的な見方・考え方を働かせて学習をするという算数科の本質に迫る学習を行えるような学習環境を整えることを目指していくことが重要なのです。その学習環境が整い、日常的に数学的な見方・考え方を働かせる経験を積み重ねることが、算数科における「探究的な学習」の土台となります。
【参考引用文献】
・文部科学省(2024)「教育データ利活用の実現に向けた実効的な方策について(議論のまとめ)」p.2
https://www.mext.go.jp/content/20240328-mext_syoto01-000034992_1.pdf
・デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省(2022)「教育データ利活用ロードマップ」p.5
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/...