算数科の「探究的な学習」をデザインする
算数という教科における探究的な学びのデザインの仕方を、理論と実践の両面から考えていきます。
算数科の「探究的な学習」をデザインする(7)
算数科の「探究的な学習」中の教師の役割
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2024/12/25 掲載

 「探究的な学習」というと、子どもに学びを委ねたら先生は見守るだけ、というイメージがあるのではないでしょうか。確かに、子どもの学びをいちいち止めることはしない方がよいでしょう。しかし、「解いて終わり」の「探究的な学習」にしないためには、子どもの学習の様子を見取り、数学的な見方・考え方が働くような声かけをしていくことが大切です。
 また、問題を解くことができない子どもがいたら、一緒に考えたり、教えたりしながら、「探究的な学習」を始められるようにすることも、教師の大切な役割になります。

話を聞きたい人に自由に話を聞ける環境を築く

 試しに、明日の授業で「自由に立ち歩いて、だれに聞きに行ってもいいよ」と子どもに声をかけてみてください。すぐに子どもたちが動き始めたら、すでに「自由にだれにでも聞きに行っていい」という学習環境は整っています。
 しかし、多くの学級では、あまり子どもは動かないと思います。なぜなら、「学習は自分の席で座って行うものだ」という固定観念を子どもがもっているからです。もしくは、「一緒に話したり、考えたりする相手や時間は、先生が決めるものだ」という固定観念ももっているかもしれません。
 何年もかけて自分の判断で動かないことを教わってきていたら、動かないことが普通です。その状態をすぐに打開することは難しいですが、少しずつ軟化させていくのです。例えば、だれかがおもしろいことをしていたとき、「○○さんがおもしろいことをしているよ!」と全体に声をかけたら、それを見ようと多くの子どもが集まってくると思います。そのとき、興味をもって動いた子どもに対して「自分で知りたいと思ったことを、自分の席から動いて見に行ってすばらしい!」といった声かけをしていくのです。そういう声かけを数か月続けていくと、だんだんと話を聞きたい人のところへ聞きに行く子どもが増えていきます。
 ただし、まずは隣の人、まわりの人と話してから動くようにします。そうしないと、特定の人とばかり話してしまうようになってしまう恐れがあるからです。

「探究的な学習」の際の教師の動きと声かけ

図1

「探究的な学習」の際の教師の動きのイメージ図

 上図は、「探究的な学習」の際の教師の動きのイメージ図です。学級の中には、個人で探究している子どもも数名いますが、多くは、自分で問題を解いてまわりの人たちと解き方の共有などをしたら、立ち歩いて自分の興味があることをやっている人たち同士で2〜4名程度のグループをつくって学習を始めます。もちろん、立ち歩かず、自分の席のまわりの人たちと一緒に学習を進める子どももたくさんいます。
 教師は、個人で学習している子どもや各グループが取り組んでいることを把握するために、ぐるぐる教室の中を歩き回り、声をかけます。声かけのパターンは、主に以下の3つです。

@問題は解けた?
Aどんな着目ポイント(数学的な見方)が使えた?
B次はどんなことできそう?

 「@問題は解けた?」は、提示した問題(1問目は全員共通の問題であると同時に、全員が解決できるようになってもらいたい問題。多くは、教科書通りの問題)が解けたかどうかの確認です。できない子どもがいたら、すぐに対応します。一人一人対応していると時間がかかってしまうので、「『ちょっとわからなくて困っているよ』っていう人は、黒板の前においで」などの声かけを教師からして、子どもを集めて解説します。
 「Aどんな着目ポイント(数学的な見方)が使えた?」は、ただ問題を解いて終わりにせず、数学的な見方を働かせることができたかどうかの確認です。子どもはどうしても「解くことで精一杯」になります。そこで、解き終わった後に、子どもが働かせた数学的な見方を自覚させ、既習とのつながりを意識させるのです。数学的な見方を働かせるのは子どもで、教師は子どもが働かせた数学的な見方を自覚させる役割を担っていると考えています。
 「B次はどんなことできそう?」は、発展的に考察することを促す声かけです。いくら数学的な見方が働かせられたとしても、教師から与えられた問題を解いたところで止まってしまっては、自ら学習を創り出しているとは言えません。そこで、「次はどんなことできそう?」と発展的に考察することを促すのです。

問題が解けなかった子どもへの対応

 自分で問題が解けない子どもは、2パターンに分かれます。
 1つは、まわりの子どもに解き方を聞く子どもです。こういう行動をする子どもは、私が解き方を教えなくても問題はありません。
 もう1つは、わからなくなって止まってしまう、もしくは、間違った解き方をしていても気づかない、という子どもです。こういう子どもは、「自分でなんとかしよう」と思い過ぎてしまうので、私から声をかけるようにしています。
 まず、子どもがどんな解き方をしているのか、数分間様子を見守ります。そして、わからなくなっているか、間違った解き方をしている場合は、「解けた?」と声をかけます。すると、だいたい「う〜ん」と困ったような返事をすることが多いです。そのときは「じゃあ、先生と一緒にやってみよう」と声をかけると同時に、「解けなくて困っている人がいたら集まって」とクラス全体に声をかけます。そうすると、4〜5名の子どもが集まってきます。
 ここでのポイントは、、「子どもに説明させる」ということです。いろいろな子どもがいるので、一緒に考えながら問題を解いてもよいですし、まずは先生が解き方を説明してもよいと思います。ただし、「教えて終わり」にしないということです。
 大人も子どもも同じで、人は説明を聞くと「わかったつもり」になります。しかし、実際にやってみると「あれっ、これってどうやるんだろう?」となることが多いと思います。だから、、一緒に考えたり、先生が説明したりしたら、「じゃあ、今のことをもう一度説明してみて」と声をかけて、子どもに説明させるのです。
 写真1は、6年生の円の面積の活用の学習で、よくあるラグビーボール型の面積の求め方を個別学習で考えた際のノートです。
 この子どもは、面積の学習の際には「面積を求められる形にする」という数学的な見方を働かせることは意識できていました。しかし、どんな形に変形すればよいかが思いつかなくて困っていました。同様の子どもが何人かいたので、声をかけて、この子どもの机のまわりに集めました。

図2

写真1 個別学習中に自力で解決できなかった子どもが書いていたノート

 そこで、1/4円から直角三角形の面積をひいて、ラグビーボール型の半分の面積を出して、それを2倍するという求め方を説明しました。
 「(10×10×3.14÷4−10×10÷2)×2」
 式だと上のようになります。この解法を私が説明した後、子どもに「じゃあ、今の解き方、もう1回説明してみて」と言って、説明してもらいました。その際も、数学的な見方を意識できるように、私から「面積を求められる形にするって着目ポイント(数学的な見方)は使えた?」と問い、1/4円や三角形の面積を求める際に働かせていることを自覚化させていきました。
 ここまで終われば、あとは各自の席に戻って、まわりの子どもと一緒に、違う解き方を考えたり、問題を発展させたりすることができます。
 ちなみに、写真1のノートを書いた子どもは、学習の後半では、まわりの子どもと一緒に、ラグビーボール型の面積の公式を考えていました(写真2参照)。まさに、算数科における「探究的な学習」をしていました。

図3

写真2 ラグビーボール型の面積の公式を考えたノート

 この子どもがすごいのは、正方形の1辺の長さが20pの場合でも確かめて、一般化を図っているところです。
 もし、私が1問目の解き方を教えなければ、ここまで「探究的な学習」をすることはできなかったかもしれません。しかし、「問題が解けない子どもは、『探究的な学習』などできない」と考えるのは早計です。、自分で問題が解けなくても、解き方がわかれば、「だったら○○もできるかもしれない!」と考えられる子どもはたくさんいるのです。

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。2023年3月明星大学通信制大学院にて修士(教育学)の学位を取得。

(構成:矢口)
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