教育オピニオン
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全員主役の体育授業のコツ
筑波大学附属小学校齋藤 直人
2024/8/1 掲載

私の考える体育授業


 小学校の体育授業で私が大切にしているのは、「体の基本的な動き(運動感覚・技能)を身につけ、高めること」です。つまり、子どもたちには自分の体を思ったとおりに動かすことができる、その楽しさを実感してほしいと強く願っています。
 体育科の究極的な目標は、「生涯にわたって心身の健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力を育成すること」にあります。これを目指すには、体育授業によって、運動やスポーツに対して前向きにかかわれるように、基本的な動きや技能をバランスよく着実に身につけさせることが必要だと考えています。つまり、運動やスポーツができる楽しさを体育授業の中で味わわせることを常に意識しています。
 イメージとしては、下の図のように「すること・できること」を中心に据えて、指導することを重視しています。

図1

 運動やスポーツを「すること・できること」を目指すからこそ、仲間の動きを「みること」に意味が生まれ、仲間の運動を「支えること」に価値が生まれ、運動の方法やコツやポイントを仲間と共に「知ること」に意欲が湧いてくるのです。
 多くの子どもたちに「できた」「わかった」という経験や体験をさせることを体育授業の中で目指すのは非常に自然なことではないでしょうか。「できないこと」と生涯にわたってかかわっていくことは非常に考えにくいと思います。
 それを実現させるには、「実態に応じた教材であり、全員が共通の課題に取り組めること」「ねらいが絞られ、全員ができそうなゴールをイメージしていること」そして、「子ども同士、子どもと教師が対話をすることで学習を進められること」が授業づくりにおいて大切になってきます。
 今回は、ついつい複雑な内容になってしまい、学習の成果に差が生まれてしまうゴール型ゲーム(中学年)の教材について紹介します。

コーンボール


「コーンボール」は、台の上に置かれたカラーコーンにボールを当てて得点とするゲームです。

図2

 中学年のゴール型ゲームの学習の中心であり、子どもたちが目指しているのは、「どうすれば得点が入るのか?」です。そこで、攻撃が有利な状況が生まれやすいような人数にし、何度もシュート場面が起きるようなルールにします。
 さらに、「自分が何をすればいいのか、どう動けばいいのかがわからない状態」を避けるために、ゴールが一か所のハーフコートで行い、コート内での攻守の入れ替わりのない、攻守を分離させたルールで行います。得点を決めるか、相手にボールを取られた場合にはスタートラインからゲーム(攻撃)を再開します。一定時間内であれば、何度でも攻撃をすることができます。

コーンボールのルール

  • 攻撃は4人でプレーし、守備は2人ずつ(最初は0人→1人)プレー
  • コーンに当てれば1点とする
  • ボールを持ったまま動いてはいけない
  • パスを繋いでシュートを目指す
  • コーンゾーンには、攻撃も守備も入ってはいけない
  • 守備はボールを持っている人から直接ボールを奪うことはできない
  • 得点が入ったとき、ボールが守備に取られたときにはスタートラインからやり直し
  • 攻守の交代は時間制とする
  • スタートラインからゴールまでは15m程度
  • サイドラインは設定しない(リスタートが難しい)

 このような攻守の切り替え(トランジション)のないルールのゲームを行うことで、ゴール型のゲームに慣れていない子でも、自分が攻撃なのか、守備なのかの迷いがなくなり、ゲームに入り込みやすくなります。そうすることで、子どもたちが目指していることであり、学習の中心である「どうすれば得点が入るのか?」という問いを全員が共有することができ、「守備のいないところでパスをもらおう」「シュートがしやすいところでパスをもらおう」という意図的なプレーを子どもたち同士が対話をしながら発揮するようになります。

ディスクゲーム


 「ディスクゲーム」は、ドッヂビー(MIKASA)をパスで繋いで運び、ゴールゾーンやボーナスゾーンの中でキャッチすることで得点とするゲームです。

図3

 つまり、得点場面とコートの大きさは違うものの基本的なルールはコーンボールと相違ないものです。実は、これが重要なポイントなのです。
 このゲームも攻守は入り交じっているものの、攻守の切り替え(トランジション)がないので、自分のチームが攻撃なのか守備なのかが明確になります。また、コーンボールとルールが類似しているので、このゲームの前に「コーンボール」を扱えばゲームの理解が早く、「どこに動けばパスをもらえるか(空いている場所に素早く動く)」という課題を学級全体で扱うことができるのです。

ディスクゲームのルール

  • 攻撃は4人でプレーし、守備は2人ずつ(最初は0人→1人)プレー
  • ドッヂビーをパスで繋ぎ、ゴールゾーンにいる味方へのパスが成功すれば1点とする。ゴールゾーンの奥にあるボーナスゾーンでパスをキャッチすれば2点とする
  • ドッヂビーを持ったまま動いてはいけない
  • パスをつないでゴールを目指す
  • 守備側はドッヂビーを持っている人から直接奪うことはできない
  • 落ちているディスクを同時に触った場合は、ジャンケンで決める
  • 得点が入ったとき、ディスクが守備に取られたときにはスタートラインから始める
  • 攻守の交代は時間制とする
  • スタートラインからゴールまでは20m程度
  • サイドライン・エンドラインは設定しない

 個人によってゲーム理解に大きく差があったり、特定の児童が活躍したりするようなゲームでは、この課題意識をもてず、児童によっては他人事となってしまうことが多くあります。そのような状態に陥ってしまえば、当然、「わかった」「できた」と感じる場面は少なくなり、その運動に対してネガティブな感情になります。
 全員が同じ課題をもち、ゴールイメージを共有できるようなルールにしていくことで、意欲的に授業に参加する子が圧倒的に多くなります。また、子どもたちは、どのように動けばいいのかを言語化して、伝え合いながら、仲間との対話を通して動きを理解していくことができるのです。

 これまでの「あたり前」にとらわれることなく、子どもたちの実態に合ったシンプルな教材を扱い、子どもたちの対話をもとに授業を進めてみませんか。

齋藤 直人さいとう なおと

筑波大学附属小学校教諭(体育科)。1985年10月8日生まれ。山形県出身。
著書に、「できる子が圧倒的に増える!お手伝い・補助で一緒に伸びる筑波の体育授業」(明治図書、共著)、「1時間に2教材を扱う 組み合わせ単元でつくる 筑波の体育授業」(明治図書、共著)などがある。

X(旧Twitter)
@naoto_roze

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