- 特集 学級崩壊をくぐりぬけて見えてきたもの
- 特集の解説
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- 実践記録 学級崩壊をくぐりぬけて見えてきたもの
- 学級未成立
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- 子どもたちの「不信」に耐え、「信頼」し合える関係を
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- 私の「学級崩壊(?)」体験とその後
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- 実践記録のコメント
- 学級崩壊をくぐりぬけて見えてきたもの―泉、藤田、岸田氏の実践を読んで―
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- コメントを受けて
- 苦しさから共同を、そして創造を
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- 子どもたちが求めていたものは
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- 教師になりきれない私の課題
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- 学級崩壊から学校再生へ
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- 「学級崩壊」と学級という現場の組み替え
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- 第2特集 失敗から学んだこと
- しいのの世界
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- もっと、子どもの行動の背景を考えないと
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- 僕たちの失敗
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- 能力主義を乗り越え、「荒れる」中学校で楽しく働く
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- 同じことの繰り返しだったあの頃
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- 「失敗」談
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- 今月のメッセージ
- 事件は現場でおきている―ある障害児学級から
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- 教育情報
- 「少人数指導」加配一年目の取り組みから見えてきたもの
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- 本格的な「いじめ」理論
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- 読書案内
- アフガニスタンの事態を教材化するために
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- 読者の声
- 1月号を読んで
- 案内板 集会・学習会のお知らせ
- 集団づくり―わたし流メソッド (第12回)
- 小学校/子どもたちの世界を広げる学年末の活動を
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- 中学校/総括を楽しみながら実践を発展させる
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- 同時代を生きる教師たち (第2回)
- 生活指導教師として歩んだ道(2)
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- ほっとたいむ サークルからの発信
- サークルは元気の源
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- コメント
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- 投稿 実践記録
- いじめられっ子からの脱出
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- 【コメント】勇気をもっていじめに立ち向かっていくパワーをつくる指導
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- 全生研の窓
- 2001年度特集主要目次
- 編集後記
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今月のメッセージ
事件は現場でおきている―ある障害児学級から
常任委員 篠 崎 純 子
意識がない!
突然「ギャー」という叫び声ともうめき声ともつかぬ声をあげて、健太は激しくけいれんを起こした。目は開いているが眼球が動かない。発作だ。健太はよだれをながしたままで意識がもどらない。慌てる。かかりつけの病院から、救急車で一刻も早く病院に来るように指示が出る。救急車を見ると健太はかすかに私に抱きついた。入学の三ヶ月前までずっと入院していた健太にとって病院は恐怖なのか。私は健太をぎゅっと抱きしめた。救急車の中にも病院からの指示が入る。酸素マスクを口に当てられ、健太はそれを必死に吸っている。多動でいつも動きまわっている健太なのに。病院に着くと、そこは緊迫した医療現場そのものであった。すでにベットが用意され、彼は足首に点滴、指に脈や酸素量の計測機、お尻から薬の管とたちまち処置がなされた。診察の結果、健太はこれからも発作を起こす可能性があるという。発語もなく、表情でも痛みやつらさを訴えることのできない健太の行動から目が離せない。背後霊のように緊張感がつきまとう。
健太とは別に、意識がなくなったら、マウスツーマウスをしながら救急車で運ぶ必要のある子どもがもう一人いる。その子どもの一時間ごとのおむつ交換、一さじごと口に入れる食事の介護中も気を許せない。極度の緊張で夜眠れなくなり、睡眠薬を飲む。突発性難聴の人も出た。ぎりぎりの中で介助員の増員を求め、私たちは立ち上がった。子どもと私たちの命を守るための「むしろ旗」の直訴である。
噛まれた!
「足でよかったですな。手の小指ならちぎれてましたよ」と医師は言った。パニックを起こした子どもが私を噛んだのだ。今まで何度も噛まれているが、今回は激痛と血が止まらないので病院に行った。治療費を払おうとすると、「労災になるので、保険証は使えない」と言われた。問い合わせてみると今までこのような労災認定はほとんど例がないということだ。子どもに怪我をさせられた教師はどうしていたのだろう。「学校にはそんな金はない」というので、自費で払おうと考えていた私に、職場の同僚は言った。「このままじゃあ誰も安心して担任できない。教師だけじゃない、子どものため親のためだ。がんばれ」現在労災申請中である。
そして、私は暴力を振わせてしまった自分の無力さにひどく落ち込んだ。暴力に屈してしまった自分のみじめな姿を認めることはつらい。どうすれば「暴力をこえて信頼の世界」がつくれるのか迷いの中にいた。彼が、私を噛んだ歯を気にして、爪でたたいているのを見て、「明日は運動会だよ。嫌いなのはわかっているけど、稔も歯が大丈夫だったら来てね。歯が心配だ」次の日、あんなに嫌いな運動会に稔はやってきた。昼休みに隠れて病院に行った私を、稔は校門で運動会の弁当を持ったまま立っていた。私がもどって来ると安心した顔をして弁当を食べはじめた。(稔、先生は足も心も痛かったよ。でも、稔も歯も心も痛かったんだね。おんなじ、おんなじチチンプイ)
「リー先生、行かないで」
愛の大好きな介助さんが予算の関係でやめさせられるという。愛は歩行も不自由で発語もまだない。ある日、愛が叫んだ。「ゥリィー」。(「りー先生」)はじめての愛のことばだ。愛のよだれ拭きで介助さんは涙を拭いた。「リー先生行かないで」と愛が訴えているように感じた。みんなのがんばりで介助さんは勤務できるようになった。愛のことばがみんなを動かしたのだ。
現場で常に事件は起き、つらい日々は続く。解決しないことも多い。しかし、現状が苦しいからこそ、人は知恵を出し合い、仲間をつくる。落ち込んだり情けない自分を抱きしめてあげよう。何とかしようとしただけでもすごいことなのだから。「さよなら三月、またきて四月」幕が降り、幕が開く。
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- 明治図書