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今月のメッセージ
行動形成に先立つ人格形成の大事さを胸に
常任委員 小室友紀子
◆重度の障害を有する子の担任に
初めて重度の運動機能障害と知的障害を併せもつ子どもたちのクラスの担任となることが決まった時、かなり自信がなく、動揺した。これまで担任してきた子どもたちは、言語障害はあったとしても、視線や指さし、行動など、なんらかの手段で明確に意思を伝えることができる子どもたちだった。とても不安で、始業式間近に、先輩の先生に相談すると、「不安なのはわかるけど、担任してこの子たちと関係がつくれたらすごいことだよね。言葉のない子とも関係がつくれるってことだよ。」と励まされた。私は言葉のない子とも関係がつくれるのか……自信のないまま出会いの日を迎えた。
さきさんは、ゆるやかに退行していくという特徴をもつ障害を有していた。小さい時はつかまって立つこともできたが、今では自分から寝返りをすることも難しい。また、この障害の特徴として、表情がだんだん乏しくなっていくということも聞いたことがあった。クラスには医療的ケアが必要で、体調面で配慮を要する子もおり、日々、とても緊張していた。食事やトイレ、着替えなど生活全般の介助に慣れることで精一杯。授業も思うようにうまくいかず、子どもたちからの応答にも手応えを感じられず、自分の力の無さに泣けてしまう日もあった。
1学期は右往左往して過ぎた。夏休み、藁をもすがる思いで、本を読んだり、先輩の先生に相談したり、学習会等に参加した。「教科を学習している子に対してはじっくり待てるのに、どうして障害が重度の今の子どもたちは待ってあげられないの?」「子どもがわからないまま進む授業って、授業として成立しているのかな?」と問いかけられ、ハッとした。そして「私は子どもの立場に立てているのか」と何度も自問した。意識していなくても「わからないだろう」と決めつけて、授業を、生活をこなす日々を送っていなかっただろうか……と……
◆つながりが引き出す力
2学期からは「その子がどう思っているのか」を大事にして過ごすことを決意した。からだを起こす時、靴を履かせる時、車いすに乗せる時、言葉もかけずに介助していた自分を反省し、「起きるよ」「靴を履くよ」など、子どもを主語にした言葉かけを心がけた。また、子どもたちが感じているであろう気持ちを言葉にして、返していくことにした。トイレでおむつをかえた時、「すっきりして、気持ちいいね。」食べる時、「ご飯がおいしいね。」気持ちを共感すること。それは私がこれまで出会った子どもたちと共にしてきたこととまったく同じだ、ということに気が付いた。
無我夢中で過ごしてきた3学期のある日、言語の個別指導の教室にさきさんを迎えに行った。「さきさん、がんばったかい?」と声をかけて顔をのぞき込んだ。私を認めたさきさんは、それまでの笑顔と違う笑顔、「あ〜、小室が迎えにきたんだ!」というような、明らかに私を認めて、みせてくれた笑顔に、さきさんとのつながりを感じた。その時、何とも言えない感動を覚えた。さきさんは私を他の人とは分けて、分かって笑ってくれるんだ!私が分かって気持ちを結び、それを豊かな表情として表わしてくれたんだ!同時期に、よく声が出るようになった。嫌な気持ちの時には出ていた声だったが、嬉しい、楽しい気持ちの時にもそれを伝えるように声が出てきた。「そう、さきさん、嬉しいの!」といつしか会話するように、さきさんと対している自分がいた。
障害を有する子ども一人ひとりが私に教えてくれる人間というものの素晴らしさ、発達の可能性、教育の希望。「行動形成に先立つものとして人格形成がある」と教え、助けてくれる同僚の先生方や保護者に支えられながら、次への力につながる一日一日を、子どもとともに丁寧にあゆんでいきたい。
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