- きょういくじん会議
以前の記事でも扱ったように、博士課程を修了したポストドクター(ポスドク)たちの就職難が問題になっている。各紙の報道によれば、文科省は5日、このような事態に対応するため、国立大学法人に対して大学院博士課程の入学定員を見直すよう通知を出したという。
平成20年度学校基本調査(確定値)によれば、昨年度の大学院博士課程に入学した人数は16,271人で、平成15年から約2,000人減少している。修士課程への進学者は77,000人前後で安定しているので、学生の博士課程離れが起きはじめていることが予想される。平成21年度 国立大学の入学定員についてによれば、本年度の博士課程の定員数は約14,000人。定員割れを起こしている大学院も少なくないため、教育の質の低下が懸念されている。
このような事態を受け、文科省は5日、全国の国立大学法人に対し、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しについて」(PDF)として博士課程の定員削減を要請する通知を出した。この中で、すでに定員削減が報じられている法科大学院と、少子化の影響を受ける教職養成系学部に対しても、定員の見直しが求められている。
背景には、博士課程修了者の就職難がある。文科省は平成8年からポストドクター1万人計画として、博士号取得者を短期間で増やす一方で、取得後の一時的な受け口として任期付きの研究職であるポスドク制度を準備した。しかし、ポスドク後の行き先として考えられていた大学・研究所の定員は増えなかったうえ、博士号取得者に対する企業の需要は減少傾向にあるため、苦労して博士号を取得しても経済的に安定しづらい状況にある。このような状況から、博士課程への進学が敬遠されはじめていると考えられる。
ポスドクを採用した企業に500万―博士たちに活躍の場を
通知によって博士課程の入り口を狭める一方で、その出口を確保しようとする動きもある。5月7日の事務次官会見概要によれば、文科省はポスドクの民間企業への就職を支援するために、博士課程修了者を雇用した企業に対して、一人につき500万円の「持参金」を支給するそうだ。企業側の「食わず嫌い」を減らすことが目的で、今年度の補正予算に5億円を計上した。
本事業では、独立行政法人科学技術振興機構がポスドクを活用したい企業の採用プランを募り、選定を行う。採択基準には、ポスドクが1年で使い捨てにならないよう、支援終了後のキャリアパス構想も含まれているという。
文科省が民間企業を事業の対象にするのは珍しく、ポスドクの就職難が早急に解決すべき課題であることがうかがえる。
ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎さんが米国籍だったことは記憶に新しいが、研究を続けづらい日本を出て、海外へ流出してしまう人材が増加傾向にあるという。博士号を取得できても就職に困り、結果、優秀な人材が海外へ出て行ってしまうようでは、最高学位取得者たちの能力が国内では生かされなくなってしまう。また、国内における博士の学位も軽んじられてしまうと懸念される。博士号取得者が持っている高い専門性と研究への熱意を生かせるよう、企業と研究者の間に適切な需給関係が生まれ、マッチング体制が整うよう、これらの施策に期待したい。