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黙々と書く子どもたちの姿
この原稿を書いている1学期終盤の現在、担任している4年生の教室では「スキマ時間」の自主勉強には「日記」を綴る子、「見開きのまとめ」をする子が目立つようになりました。
日記指導を学級文化の柱にすると、様々なよいことが起こります。
日記で学級をつくり、活気づいた学級からすてきな日記が生まれる…。
日記を紹介すれば、作者であるその子自身に注目が集まり、クラスの仲間によいことで注目される機会が生まれます。子ども同士の関わり合いの意識が生まれるのです。
日記を続けることで、“たまたま居合わせただけの集団”ではない、“あたたかく関係し合う集団”が生まれます。
本稿では、「日記指導」の魅力について、教室から実況中継したいと思います。
バラエティー日記
「バラエティー」とあるのは、様々なお題で取り組ませるからです。「書くことがない」という子が生まれないように、そして発想を刺激するように、「日記のお題一覧表」を配ります(詳しくは『クラス全員が喜んで書く日記指導』(明治図書)をご覧ください)。
【お題の例】
なりきり作文/うちの子をよろしく/好きな詩や本の視写/紹介します!輝く自分/紹介します!輝く友だち/もし○○だったらシリーズ(もし自分が動物園の園長だったらどういう動物園を作り上げるか)/俳句、短歌、川柳/我が家のメニュー紹介します!/オススメの場所はここだ!/痛い話/笑える話/感動の話 他多数
子どもたちは自分で考えたお題で書きますが、困ったらこの一覧表の中から選んで書きます。取り組むうち、仲間の題材に刺激されて、当然「お題」は増えていくことになります。
「お題」の作成ですが、身の回りにあることはもちろん、様々な所から集めてくることができます。例えば、日本には「季語」が存在します。「季語辞典」はお題の宝庫です。そのような中からお題を抽出する作業も楽しいものです。
まずは書かせてみて、
「わかりやすい文章」「文体がそろっている文章」「気持ちが書かれている文章」「描写が美しいと思う文章」「会話文が面白い文章」「仲間へのメッセージ」「授業の振り返り」
など、教師が読んでピンときた日記を子どもたちに読み聞かせたり、印刷して配ります。教師もファイルに綴じておきます。1学期終盤の現在は、「クラスの仲間紹介」「家の料理を写真付きで紹介」「勉強の復習」「気に入った詩を写してくる」「ドジな話」などのテーマで楽しく書く子が増えています。
書かせる頻度
書かせる頻度ですが、週に1回金曜日に日記を宿題にしています。それ以外に自主的に書いた子は随時提出します。
日記指導で一番大切なのは継続して書かせることです。それにはまず、教師が続かなくてはなりません。週に1回にしても、何度も出す子もいるので、今では毎日うれしい悲鳴を上げています。
まずは教師が続く頻度で始めましょう。難しく考える必要はありません。教師自身が気楽に、楽しみながら日記を“教室の遊び文化”として位置づけていくのです。
人(の実践)と比較する必要もありません。先行実践への“あこがれ”は大切ですが、「こうしなければ」「このような文章が生まれてくるようにしなければ」と焦って肝心の目の前の子どもたちの姿が目に入らなくなるようでは本末転倒です。
まずはやっていて教師自身が楽しいか。そして子どもたちが日記に生き生き取り組んでいるか、楽しんでいるかが大切です。その後、子どもたちの可能性は果てしがないですから、様々な内容の文章、主張の含まれた文章、独創性のある文章が生まれてくればよいのです(上の日記はいずれも4年生1学期のもので、2枚目と3枚目は続きもの)。
「見開きのまとめ」
もう一つ子どもたちが熱中するメニューが、「見開きのまとめ」を日記帳に書くことです。見開きの2ページを使って、自分の好きなことをまとめるのです(※)。
私の教室では現在、「絶滅動物」「野生動物」「料理レシピ」「算数の単元の復習」「家族のこと」「サッカー選手」など、子どもたちは様々なことについてまとめてきます。
できたら必ず評価してあげます。AやAA、Sといった評価です。
そのために評価基準を定めておきますが、難しく考えると教師が続かないので、いざ評価を書くときは、さっと決めて書くようにしています。何度も何度も子どものノートを見ることで、その目は養われていきます。
「見開きのまとめ」の評価基準を参考までにあげておきます。
- A:
- ていねいに書いてあり、題名があり、ページの最後まで書かれている。
- AA:
- Aに加えて情報量も多く、見やすい。
- S:
- 情報量が多く、読みたくなる工夫がなされている。
- SS:
- 情報量が多く、イラストや吹き出し、模様、着色など多くの工夫がなされており、自分の意見(考え)が書かれている。
(下に行くほど高評価)
評価基準は、学習指導要領、子どもの実体、学年目標などに準じて決めていけばよいと思います。その子の“前回からの頑張り具合”、そのような微妙なことも評価に入れてあげることができるのは学級担任だけです。あくまでも楽しんで取り組む自主勉強としての日記ですから、評価のがんじがらめにはならないようにします(教師がズバッと決めてあげます)。
「見開きのまとめ」にのめり込む助走指導
さて、子どもたちがすぐに取り組めるようになるコツは、イメージできることです。最初は、これまでの教え子の作品や、本などから見つけてきたものを「見本」として提示するとよいでしょう。私はかつての教え子の「見開きのまとめ」を、A3に拡大コピーして黒板に貼ったり、全員に印刷して配り、日記帳に貼り付けさせたりしています。
とにかく、子どもたちに色々なものを与え続け、目に触れさせ続けることです。
※「見開きのまとめ」のお題一覧表は、『教育科学 国語教育』2013年8月号連載記事をご覧ください。
日記のコメント(評価)
毎回、子どもたちが提出した日記にはコメントを書きます。作品によっては賞を付けます。私は「教室言葉」という考え方で、担任の教師だからこそかけられる魔法の言葉を考えてはストックしています。魔法の言葉とは、「子どもをやる気にさせる言葉」「子どもにルールをわかりやすく理解させる上手なたとえ」などです。
日記も同じで、「短いけれども子どもをやる気にさせる言葉」や、「文章表現へのアドバイス」、「内容への対応」などを伝わりやすいようなコメントにし、瞬時に入れていきます。ここでもさっと決めて書くことが大切です。
読みながら教師が印象深い箇所に線を引き、丸を入れたり、その文章の行の上の余白スペースに矢印やコメントを書いたりします。
「書き出しバンザイ!」「おもしろ表現!」「リアルすぎる!」「美しい文章!」「くわしくてあっぱれ!」「美しい景色が見えてくるようだ!」「あえて書かないからいい」
のような表現技法に対してのコメント。
「先生も小さい頃こわがりだった!」「明日は頑張れ!」「ホームランおめでとう!」
のような内容面に関してのコメント。時にはどちらも入れます。気をつけたいのは“熟考しない”こと。いちいち熟考していてはコメントを書き続けられません。数百回、数千回と子どもの日記を見ていくことで、素早いコメントができるようになってきます。コメントを1年間も見続けないうちから、「コメントは…」などと考え悩むことはあまり意味があるとは思えません。どんどん書かせることのほうが大事です。
どんどんコメントをして、コメントに困ってきたらその都度周囲の先生に話を振り、よいコメントがあったらいただく。
ただし、あくまでもコメントは毎回世界に一つです。今、その時に出されたその子の日記に対するコメントですから、言うなれば毎回“限定1”です。
また、コメントはノート1ページ分のようにびっしりになることもあります。要は、その子のその日記を書いたときの状況、内容などにあわせて返信していくので正確には「決まった型」というのは存在しません。コメントありき、ではなく、たくさん楽しんで書かせることありき、です。
日記の賞システム
コメントと同時に、賞を与えます。賞を獲った子の表紙に「賞獲得シール」を貼ってあげます。賞は、
- ★グランプリ
- 教師が「まいった」と思う日記→シール3枚
- ★プチグランプリ
- 教師が「面白いお題だな」「よくまとまっているな」「面白い表現だな」と思える日記→シール2枚
- ★バラエティー賞
- その子しか書けない体験や思いが短くても綴られている場合→シール1枚
という具合です。
シールは国語辞典に貼る付箋のようなものです。自分の頑張った証が日記帳の表紙にたまっていくのです。子どもたちはとても喜びます。それと、「ゲーム性を持たせる」「遊び心」「教室全ての子がやる気を出すために」など、付加価値として様々な理由から導入しています。シール自体が目的ではありません。ですが、それでやる気になる子がいるなら導入すればよいと思います。
日記のイベント
「日記」コンテスト、「見開きのまとめ」コンテストといって、1ヶ月に1回くらい、教師が与えたテーマでコンテストを行っています。定期的に日記活動を活性化するイベントを仕組んでいくと盛り上がりますし、飽きがきません。
日記で“学校生活熱中人”育成!
「先生、日記やっていいですか?」
スキマ時間ができたときに子どもたちから頻繁に聞かれる言葉です。
ある子は、「宝くじで3億円当たったら何を買うか」を日記帳に書いてきたのですが、その4位に、「日記帳」とありました(4位というのがリアルでしょ)。
「先生、今○○の『見開きのまとめ』書いてるよ」「先生、図書室に日記帳持っていっていいですか?」こんな声もどんどん聞こえてきています。
まさに、書き遊んでいる光景が教室にできてきました。
「書き遊ぶ」これこそが私が子どもたちに実感してほしい書くことの醍醐味です。日記を通して、学校生活に熱中する子を続出させましょう。「学校生活熱中人」です。子どもたちにとって、プラスのエネルギーを向ける先があると教室は荒れません。知的で、あどけない集団となります。好奇心旺盛な、活気ある集団となります。
それらは、日記で実現できるのです。
1学期、3冊目の日記帳を終えた子(4年生)が最後のページにこんなことを書いていました。
もう終わってしまいます。たったの4日で日記帳が終わるなんて、なんか、ありえません。
4冊目はどんな冒険か楽しみです。
ありがとう日記帳。
気負わずに、楽しみながら日記を導入しましょう。
日記帳で書き遊び、
日記帳で自分を表現し、
日記帳がクラスの仲間の心をつなぎます。