事例「どうしておしゃべりしているの?」→「本当におしゃべりなのかな?」
初任者の頃の授業中。
私が説明をしていると、教室の後ろの方の席で2人の子が何か話をしています。小さな声なので、何を話しているかは聞こえてきません。周りに迷惑をかけるほどの音量ではありません。
しかし私にとっては、説明中に2人のおしゃべりをする姿がチラチラ視界に映るので気になります。
また、授業中に私語をする子が増えると学級崩壊するのではないかという恐怖と不安があったので、2人がささやきあっているのが嫌でした。
何よりも2人の子のうち片方の子が、普段から私に反発してくることがあったので、「教師として馬鹿にされたくない。毅然とすべきだ」という思いがグッとこみ上げてきました。
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そこで私はきつく言いました。
「ほら、そこの○○さんと△△さん! さっきから何を話しているの! 授業中なのにおかしいでしょう。説明しているんだから、静かにしなさい!」
2人は不満気に少しふてくされた様子でした。
もちろん、1人の子はキッと私をにらみつけるように見ていました。
後日、別件の女子同士のトラブルについてその子と話していたときに、思わぬことに気付かされました。
その子は泣きながら、私に胸の内を語ってくれました。
「…先生はさ、いつも私が悪いって決めつけるじゃん! この間だって、授業中に△△と話していたときだって、私たちは授業の内容について話していたっていうか、わからないからちょっと確認していただけなのに、いきなり『授業中にふざけるな』って怒りはじめてさ、私だってちゃんとやっているんだからさ! どうして…」
ハッとしました。言葉になりませんでした。一瞬で頭が冷静になり、これまで私がいかに自分の思い込みで決め付けていたのかがわかりました。
私の思い込み、決め付け、早とちりによって、目の前の子だけではなく、ひょっとすると多くの子を傷つけていたのかもしれないと思うと、いたたまれなくなりました。
解説
口に発する前にいったん立ち止まる
私の「思い込み」「早とちり」、子ども用語でいうと「決めつけ」により、子どもと心の距離が離れていった経験について書きました。
では授業中、実際に子ども同士が会話をしているとき、どのように対応すればよいのでしょうか。
まず教師であれば、私語している姿を見ると、必ずピピっと次の言葉が浮かぶはずです。
「おしゃべりしているぞ」
「何を話しているんだ」
「静かに聞くべきだ」
「おかしい」
ここでちょっと立ち止まります。
自分の思い込みを疑ってみせるのです。
次のように自分に問いかけます。
「本当にただのおしゃべりかな」
「授業に関係のある話しかもしれないな」
口に出すときは優しく落ち着いて「どうした?」
そして自分に言い聞かせます。
「まずは落ち着こう」
「無の境地から見よう。聴こう」
そしてたずねます。
「どうした?」
すると、子どもは話していた内容や理由を話します。
授業に関係ない話をしていた場合には「あ、すみません」と謝ってくるはずです。
他の場面でも使える「どうした?」
「なんで立ち歩いているの?」
「どうして時間に遅れて戻って来たの?」
「なんで、今もめているんだ?」
こんな風に思う時がよくあるはずです。
まずは自分の決め付けから距離を置きます。
そして笑顔で「どうした?」
子どもは大人が思っている以上に、まじめで素直です。
大人が落ち着いて「どうした?」と聞けばスッと自分の思いを言います。
反対に、大人が怒り口調で決め付けると、子どもは「は? うざ」となります。
「どうした?」を言えるように、コンディションを整える
笑顔で「どうした?」を可能にするのがよいコンディションです。
自分の状態がよい状態であればこそ、心に余裕が生まれ子どもにもゆとりをもってかかわることができます。
1単位の時間に多くを詰め込みすぎたりせず、ねらいをしっかりと定めて授業に臨みましょう。焦ると、人は怒りや不安を覚えます。
普段から健康状態に気を配りましょう。
しっかり寝て、朝食を欠かさず、運動を適度にしましょう。
この3つを徹底すれば驚くほどコンディションが上がります。
「そんなの当たり前」という声が聞こえそうですが、当たり前のことを徹底してできることがプロの証です。
ここがポイント!
- 思い込み、決め付けから離れるために、まずは自分の思い込みを疑う!
- 決め付けて叱る前に、笑顔で「どうした?」今月の「言葉のワザ」
- 常にコンディションを整えておく!
生徒も我が子も同じですね。昨日、ちょっと立ち止まって車椅子の娘と見た夕陽。パラグアイで見たあの美しい夕陽と同じ。なぜか涙がこぼれました。必ずや再びあの夕陽を生徒にも娘に見せると誓いました。西野先生、いつも元気をありがとうございます。