- 著者インタビュー
- 学級経営
学級崩壊は長く教師の力量不足や特定の子どもの不適切な行動の連続などと個人的な要因とされてきました。しかし、その後の研究から社会の変化による構造的な要因が指摘されるようになってきました。
こうした社会的な要因は、小手先のテクニックでは改善しません。それで解決するならばとっくに過去の問題になっているはずです。学級崩壊に対応するためには教師の考え方から見直していく必要があります。
本書は学級崩壊を克服するためにどうしたらいいかを示す前に、かなりのページ数を割いてどのように考えたらいいかを丁寧に示しました。また、考え方においても「アドラー心理学ありき」ではなく、なぜ、アドラー心理学がこの問題に対して有効なのかも丁寧に述べました。そうすることでアドラー心理学のもつ力を引き出すことが可能となるからです。解決策は、なぜそれが有効なのか理解されたときに、もっとも効果を発揮することでしょう。
健康診断で何らかの不具合が見つかったら、普通、人はその再発防止のために何らかの手を打つはずです。しかし、学級経営上の問題は、教師の個人的な問題として片付けられたり、領域そのものが専門性として認知されていなかったりして、教師にとって「学ぶべきもの」となっていないことがあります。学級が荒れたり崩壊したような事例があったならば、いや、そうでなくても今の時代に安全な学級などないという認識に立っていれば、学級が荒れないために何らかの手を打つはずです。しかし、上記のような理由等で学級の荒れに対して無防備な状態が散見されます。そうした学校では、学級崩壊や荒れを反復するサイクルが回ってしまっていると考えられます。
学級崩壊が起こっているクラスは、適切な行動のスルーと不適切な行動の強化が、あちこちで起こっているのです。つまり問題の本質は、個別の子どもの問題行動ではなく、不適切な行動を誘発し強化するネットワークのあり方です。学級の機能を回復するには、適切な行動の正の強化による増加と不適切な行動への負の強化による減少の積み重ねによって、学級内のネットワークを正常化する必要があります。
学級内のネットワークの機能不全のほとんどは、コミュニケーション不全から来ていると考えています。あちこちで配線が断ち切れているような状態です。何でも言い合える関係とは、子ども同士のつながりを回復し、情報の流通をスムーズにすることです。 配線が断ち切れていたり、配線そのものが細いと学級という組織は免疫力が弱くなり、すぐに荒れに負けてしまいます。何でも言い合える関係がつくられているクラスは免疫力が高く荒れに強くなります。取り組みの見守りと勇気づけは、体の免疫を上げるための栄養や休養や適度な運動のようなものです。
学級崩壊というと複雑に問題が絡み合った解決困難な課題に思われるかもしれません。確かに、一旦こじれてしまったらその回復は容易いとは言い難いです。しかし、なぜ荒れるかというメカニズムはシンプルなものです。荒れのメカニズムを理解し適切な手を打てば回復不能な問題とはならないでしょう。学級崩壊の問題は「学級経営の教科書」と呼ぶべき、学級経営力の向上にたくさんの示唆を含む問題でもあります。たくさんの方に手にとっていただけると嬉しいです。