- 著者インタビュー
ゆとり教育の導入もその路線変更も、道徳の教科化も外国語の導入も、近年の教育改革はそのほとんどが現場への批判が基盤になっていて、改革の度に現場の先生方が自信を失っていく構造が続いているのではないでしょうか。しかし、「主体的・対話的で深い学び」に象徴されるように、現場で先行的にグッド・プラクティスがなされているからこそ注目されたわけであり、けっして現場は「できていない」わけではないのです。個別最適な学びと協働的な学びの一体的な実現をしている教室や先生方は既に一定数いるわけでその実態を明らかにしようというのが本書のねらいです。
単著という形で発信するとそれは著者の意図にかかわらず読者に「正解」として伝わってしまうことがあります。しかし、現場は多様です。1つの「正解」で対応できるほど単純ではないのです。教室の多様性の幅が少ないときは、その「正解」機能する場合もあります。本書は小学校の教師が中心ではありますが、8人の先生方からお話をうかがうことによって選択肢を用意させていただきました。8人が同じことを言っている部分もあれば、異なることを言っている部分もあります。それらを取捨選択したり統合したりしながら、ご自身の実践の参考にしていただきたいと思います。人の「服」を着こなすことはできません。選択肢から自分にフィットする「服」を選んだり、組み合わせてオーダーメイドの「服」、つまり実践を構想したりしていただければと思います。
個別の学びを考えるときに、入力の道具としても出力の道具としてもこれまでの道具よりも遙かに多様性があり、ICTの活用は不可欠です。しかし、ICTの活用が,その子にとって最適な学びなのかという問題は別問題です。ICTは個別最適な学びの必要条件かもしれませんが、十分条件ではないと考えています。
8人の先生方が、「個別最適な学びと協働的な学び」の基盤として学級経営を重視していました。それは,一人一人の自由度と選択を保障するためだったのではないかと思います。これからの学級経営は、これまでの安定性だけでは不十分であり、活動的な能動性が求められます。しかし、8人の先生方のクラスがどんなに自由で活動的でも集団としてばらけてしまわないのはさらなる条件が整っているからです。詳しくは本書をご覧ください。
自己調整学習が成り立つためには、子どもたちが自己調整方略をもつことが求められます。自ら学ぶ力と言ってもいいかもしれません。その自己調整方略は、教師がいくら口で説明しても身につかないことがこれまでの研究で示されています。自己調整方略は、仲間とのかかわりの中で身につきます。だからこそ、学級経営が大事なのです。
教育改革の波を乗り越えるためには、次々と降ってくる「新しい文言」に振り回されるのではなく、まずは、自分の「持ち物」を探してみてください。「あるもの探し」です。個別最適な学びと協働的な学びのリアリティは、どこかの先進の教育システムのなかにあるのではなく、「あなたの教室」にあるはずです。まずはそれを見つけて育ててみませんか。そのためのヒントが満載の書籍になっています。