- 自治でつくる学級づくり
- 学級経営
自治的集団づくりの具体的方法論としてのクラス会議
これまで、自治的集団づくりについて述べてきました。読んでくださった方は、その必要感や意味をご理解いただけたと思います。しかし、一方でどうやって自治的集団、つまり、「@自分たちの生活の問題に気づき、A課題を設定し、B解決のために民主的な意思決定をし、C行動し、D評価と改善をしながら解決をする、E1〜6のプロセスで教師の適切なサポートを受けながら成長する集団」(第5回参照)を育てればいいのかと思われた方もいると思います。協働に準備不足の子どもたちに、協働の為のしつけをしながら、主体的に問題解決をする集団を育てる方法論などあるのでしょうか。
私は小学校の教師だった頃から、自治的集団を育てたいと思い試行錯誤を重ねて来ました。しかし、うまく行きませんでした。そんな時に出会ったのが、クラス会議でした。教科の学習には消極的な子も、クラス会議の時間を心待ちにしていました。担任としては「やれやれ」と思うようなクラスの問題を子どもたちは、生き生きと話し合っていました。教師が解決策を思いつかないような問題を話し合いを重ねながら解決する子どもたちの姿に驚きを禁じ得ませんでした。「今まで自分のやっていた学級集団づくりは何だったのか…。」そんな思いすら抱きました。
クラス会議とは、「自分たちの生活上の諸問題を解決する話し合いを繰り返すことを通して、協働を実現するためのスキル、態度、価値(協働のためのしつけ、第11回参照)を学び、自治的集団を育て、子どもたちには協働的問題解決能力を身につけさせるプログラム」です。詳しくは参考文献を挙げましたのでご覧ください。*1
いかがでしょうか。自治的集団の育成を、と言われても理想としては理解できても現実味がありませんか。しかし、地域の中心校ではなく、研究校でもはない「普通の学校」で、しかも校長先生を含めた職員が何人も入れ替わるなかで、自治的集団の育成を実現し続けている学校があります。
自治的集団のリアル
その学校を訪問すると、研修担当の先生が私の顔を見るなりこう言いました。
「先生がいつも講座でおっしゃっていた自治的集団がここにありました。」
先生は、私の講座によく来てくださる方です。しかし、「自治的集団ねえ、そんなクラスができたらいいけど、でも現実はねえ…」という印象もあったそうです。ところが、この学校に来て、自分たちで学校生活を進める子どもたちの姿を目の当たりにして愕然としたそうです。今年度から赴任した校長先生も初日から子どもたちの「『圧倒的な姿』に驚かされた」と校長室で話されていました。
この学校に、私たちが学校支援で4年間お世話になったのが2年前。支援チームが学校を去っても、先生方はずっとクラス会議を続けて来ました。今日はその学校の5年生のクラス会議を院生さんと共に参観に行きました。最初、「飛び込み授業を」と言われたのですが、辞退しました。どうせ何もさせてもらえないからです。というのは、昨年もこの学校から同じような依頼があったのですが、クラス会議中、「ひと言」しか喋らせてもらえませんでした(笑)。だから、子どもたちからクラス会議を見せてもらい、参観者が学ぶ時間にしました。
議題は「クラス目標を決めよう」でした。「絶対、1時間で終わらない」と私を含め多くの先生方が思いました。それでも、そうなった時、子どもたちがどうするか見てみようと思いました。しかしです…。個人思考からのグループでの意見の拡散、グループでの収束、そして、グループから出された意見の全体での検討と収束…そして、「え?」2分オーバーしましたが、開始から47分後には、「決まりました。拍手〜」とクラス目標が決まっていました。
さらに唸ったのは、その内容です。学級目標を話し合うと大抵のクラスは、「仲のいいクラス」「勉強をがんばるクラス」など、「自分たちの利」に関心を向けます。しかし、この子たちは、6年生を助けたい、低学年に優しくしたい、いや、全校を助けたいという願いを出し合っているのです。この子たちが、社会的関心を全校に広げていることがわかりました。
この日の公開授業は「授業者」がいませんでした。強いて言えば、授業者は子どもたち。担任もひと言も口出しをしません。当然、私も。子どもたちは知ってか知らずか、話し合いが止まろうが、困ろうが一切教師を見ませんでした。ひたすら助け合い、支え合い、合意形成をしていました。参観者である我々はただただ、頷くしかなかったのです。
一番長く勤務する先生に聞きました。
「校長先生が代わっても、職員が入れ替わっても、なぜ、この姿を継続できたのですか?」
すると、次のような答えが返ってきました。
「クラス会議は、それぞれの担任が子どもたちから教えてもらいました。また、これまでの校長先生方もこの姿を『よし』とされているからこそ、続いてきたのだと思います。」
かつて職員がこう言ったことがあります。
「この学校に居たら私、ダメになりそうです〜。だって、どんな授業でもやる気満々で取り組むんですから。」
「協力し合って学ぶ子どもたち」、「教師の想定を超えて活動する子どもたち」、「自らの生活を自らの手で創る子どもたち」を見てみたいと思いませんか。自治的集団づくりはファンタジーやロマンではありません。激変の時代を生きる子どもたちに必要な力を付けるための、学校教育におけるリアルな選択なのです。
*1
@赤坂真二『クラス会議入門』明治図書、2015
*本文で紹介した学校での実践が基になっています。「クラス会議プログラム」をより実践的にアレンジしたものです。
A赤坂真二『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』明治図書、2016
*クラス会議、授業づくり、日常指導から自治的集団の育成について述べてあります。
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。
学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。
最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。
学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。
本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。