赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」
学級づくり成功のカギは、子どもたちの自治にあり!
赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」(3)
私たちの学級には経営がない?
上越教育大学教授赤坂 真二
2015/8/15 掲載
  • 自治でつくる学級づくり
  • 学級経営

「学級集団づくり」がわからない学生たち

 大学院で学級集団づくりに関する講義をしていた時のことです。学部から進学してきた院生(ストレートマスター)の一人が怪訝な表情をしていました。
「どうしたの?」
と尋ねると、
「ちょっと、ピンとこないです」
とのことでした。
 周囲にいた数人のストレートマスターに同様のことを尋ねると、やはり、
「よくわからない……です」
との答えでした。
 念の為に言っておくと、彼らはとても真面目な授業態度で、内容を一生懸命理解しようとしていました。それでも、「よくわからない」のです。もちろん、私の講義内容、方法の問題もあるとは思いますが、話をしていて気付かされるのは、学級集団づくりにそれほど必要感を持っていないということです。
 今度は、学部2年生の授業で尋ねてみました。
「教師になったとして、『明日、国語の授業を一時間やってみてくれませんか』と言われたらできる?」挿絵1
すると、
「出来るかな……」
と、言います。
 そこで、次の質問をしてみました。
「では、『明日、学級集団づくりをしてください』と言われたらできる?」
すると、
「で、できません」。
理由は「何をしていいのかわからない」からだそうです。

学級集団づくりを「学ぶ場」がない

 学級集団づくりがよく理解できないのは、ストレートマスターにも学部生にも責任はほとんどありません。学級集団づくりが教員養成のカリキュラムに位置づけられていないのですから無理もありません。
 多くの現場の教師たちが「大事だ」と強調する学級集団づくりに対して、学生たちは、ほぼ「丸腰」で現場に出されるのです。若手教師の何割かが、学級集団づくりに困難を抱えることは十分に予想されることです。教員養成のカリキュラムにはいくつかの穴が指摘できますが、学級集団づくりは、大きな穴の一つと言えるでしょう。
 これは、若手教師だけの課題なのでしょうか。下に示すものは、教員免許更新講習で私の講座を受けた、20年目の教師の感想です。
「日頃実践していることに、自分自身がこれでいいのかなと自信をなくしていることがいくつかあります。前はうまくいったのに今はなかなかうまくいかない状況に、子どもの変化に自分自身がうまく対応しきれていないのだと思います」
 また、学級集団づくりの講座を聞いたベテラン教師の感想によくあるのが、
「いいお話でした。今日のお話を、若い同僚に聞かせたかった」
というものです。こうしたコメントから学級集団づくりが若手教師の課題であるとの意識がうかがえます。
 しかし同時に、教員免許更新講習で、10年目、20年目のミドルやベテランの世代の教師からは、上で紹介したような学級集団づくりに関して「今も悩んでいる」「未だによくわからない」という声も聞こえます。こうした背景として、「学級集団づくりの問題は若手のものだから、今更聞けない」ということと同時に、「学級集団づくりを学ぶ場がない」ということが指摘できるでしょう。
 

学級担任はクラスの「マネージャー」

 学級集団づくりは、学級経営の中核を為す営みです。学級経営は、クラスマネジメントと英訳されます。マネジメントをする人は、言うまでもなくマネージャーです。ドラッカーによれば、マネージャーとは「組織の成果に責任を持つ人」であり、その仕事は5つあり、

 1 目標設定する
 2 組織する
 3 動機づけとコミュニケーションを図る
 4 評価測定する
 5 人材を開発する

ことだと言います(*1)。
 このように企業経営から見ると、成果を挙げるためには、メンバーの組織化モチベーションの管理は、必須の項目であるはずなのに、学級経営においては、学ぶべきことの対象になっていないという実態がうかがえます。
 ここにこの国の子どもたちの優秀さと、だからこそ発生した落とし穴の構造が見えます。学級集団づくりが困難な状況になったのは、2000年前後と言われています。それまでの学校教育で想定されていた大方の子どもたちは、教師の言うことを受容する傾向の高い「素直モデル」でした。しかし、2000年くらいから、「素直モデル」が崩れてきました。子どもたちが学校において、児童生徒役割を演じなくなってきたのです。
 学級集団づくりを若手の課題と捉えがちなのは、50代から上の世代です。恐らく彼らが最も勢いのある実践をしていた30代は、子どもたちがまだ「素直モデル」だった状況だろうと予想されます。だから、現在の学級担任の先生方が、抱える学級集団づくりの問題を過小評価してしまう傾向があるのではないでしょうか。
 あり得る想定としては、若手の教師が担任する教室に、ベテランが入ると、ルールやしつけの面で不備が目立つことがあります。ベテラン教師は、叱る、怒るなどのかつて自分がやってきたマネジメントの方法をとります。するとその教師との関係が悪くなり学級が荒れることがあります。
 今、便宜的に「ベテランが」という表現をしましたが、年齢に関係なく学級集団づくりを学んでいない教師に起こり得ることと指摘できるでしょう。また、「素直モデル」の子どもたちとやれていたベテランに学んだ次の世代にも同じことが起こり得ます。
 少し言い過ぎたでしょうか。しかし、大局的に見ると、近年のこの国の教室においては、教科書の内容を教えることや伝えることに多くの時間と関心が払われ、子どもたちを組織したり、モチベーションを育てるなどのマネジメントの部分が弱いことが指摘できます。少なくとも、マネジメントが学校全体で学ばれておらず、先生方の個人的な努力によって営まれているのが現状と言えるでしょう。

(*1)P.F.ドラッカー著、上田惇生訳『マネジメント[エッセンシャル版]基本と原則』、2001、ダイヤモンド社

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:松川)
関連書籍
2016.3.2 update

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