赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」
学級づくり成功のカギは、子どもたちの自治にあり!
赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」(4)
自治的集団と社会の変化
上越教育大学教授赤坂 真二
2015/9/15 掲載
  • 自治でつくる学級づくり
  • 学級経営

どんな学級が理想?

 みなさんの理想とする学級集団の姿はどんなものなのでしょうか。学級経営論が、教員養成でしっかり教えられていない現状では、同世代でも理想とする学級像が、文化論になっていて一人一人の教師によって大きく違っている場合があります。お話をお聞きしていると、規律よくまとまりのいい、なんでも一斉にやることができる集団がいいと言う方もいれば、学級はまとまっていなくていい、むしろ、みんな同じ方向を向いているのは「気持ち悪い」とまで言う方もいます。
挿絵1 こうした一見ばらばらな様相を見せる望ましい学級像ですが、多くの教師に共通する最大公約数的な志向性は指摘できるようです。河村茂雄氏は、「指導−教わるという縦の役割関係が良好に成立している集団を単純によい学級集団と日本の教師は捉えていない」とした上で、「子どもたちの自主的・自治的な活動で学級集団が運営されていくのを是とする傾向がある」と言います(*1)。
 みなさんいかがですか。とりあえず、現在の学級の姿は棚に上げておいて考えてみていただけませんか。どんな学級が理想ですか。教師が強い指導性でぐいぐい引っ張ることでまとまっている学級がいいですか。それとも、自分たちでまとまりを生み出していく学級がいいですか。恐らく多くの方が、後者を志向しているのではありませんか。

『自治』の重要性を改めて強調する理由

 「自治でつくる学級づくり」とは、何も新しい話ではありません。わが国の教師の本来的な願いに基づいた、伝統的な学級像に基づく主張なのです。ただ、なぜ今ここで改めて主張しなくてはならなくなったかと言えば、前回までに述べたように、自治的な学級づくりが難しくなってきた現状が指摘されるからです。しかも、これは、「古き良き伝統的な学級づくりが失われているから何とかしなくては!」というようなノスタルジックな話ではないのです。
 社会は、変わりました。そして、これからもっと変わります。雇用形態は更に崩れ、子どもたちが就こうと思った職業がどんどん機械に取って代わられ、そして、少子高齢化により、消滅するかもしれない町があちこちに現れると言います。こうした大きく変わろうとしている時代を生き延びるために必要な力はなんでしょうか。
 変化に対応する力の中核は、問題解決能力ではないでしょうか。変化はしばしば、私たちのそれまでの在り方と摩擦を起こします。その摩擦は、問題として表出します。目の前に解決しなくてはならない問題が現れたときに、そこから目を逸らしたり、逃げたりするのではなく、自らその主体となって解決策を見つけ、実行する力が、変化への対応力を高めます。
 こうした力は、教師によって隅々まで管理された学級では育成することが難しいのです。管理された教室では、表立って問題が起きません。いや、実際は問題があっても、教師の注意や叱責で解決してしまいます。子どもたちが問題を解決を経験しないままに、生活が成り立っていくので、子どもたちに問題解決能力が育たないのです。スポーツは実際にやってみないことには上達しません。筋肉はトレーニングしないと発達しません。問題解決能力も、それが身につくのは問題解決を通してのみです。
 河村氏(前掲)によれば、自治的集団とは次のような集団です。
「学級のルールが児童生徒に内在化され、一定の規則正しい全体生活や行動が、温和な雰囲気の中で展開される。さらに、課題に合わせてリーダーになる子どもが選ばれ、すべての子どもがリーダーシップをとりうるようになる。学級の問題は自分で解決できる状態である。児童生徒は自他の成長のために協力できる状態にある」(*2)。
 このように自治的集団の育成には問題解決の経験が不可欠です。少なくとも、重要な部分を担っていると指摘できるでしょう。しかも、これが学習課題ではなく、「学級の問題」、つまり生活上の諸問題であることが注目されます。学習課題は、教科書や教材から生まれます。子どもたちの生活現実から少し離れたところにあると言えます。子どもたちが、人生の中で向き合わなくてはならないのは生活現実から生まれる問題です。変化の時代を生き抜くには、生活現実における問題解決能力だと言えます。

「21世紀を生きる子どもたち」に必要な力を育てる

 もう一つ見逃してはならない能力が、リーダーシップと協働です。これからの時代に、子どもたちが向き合わねばならない問題は、その規模や構造から言って、一人で解決できるレベルではありません。しかも、それらは、仕事のこと、友人とのこと、家族など、全て人間関係と無縁でいることはできないのです。それらを解決するには、他者との協働が必要であり、協働においては複数の人間が動くのでリーダーシップが必要になってきます。
 変化の時代を生き抜く時に必要な力は、降りかかった火の粉を自分で振り払う、いや、仲間と力を合わせ、出火元の火を消してしまう力、そして更には、焼け跡に新たな建物を建てるような力が必要なのです。
 そうした力は問題解決体験の積み重ねによって育成されます。子どもの時から、身の回りの小さな問題を解決することによって問題解決の体力が備わります。そして、学級を自治的集団に育てるプロセスには、問題解決能力、リーダーシップ、そして他者との協働など、21世紀を生きる子どもたちに必要な力をつける機会がふんだんに設定されているのです。

(*1)河村茂雄『日本の学級集団と学級経営』図書文化、2010
(*2)前掲*1

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:松川)
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