- 自治でつくる学級づくり
- 学級経営
「学級崩壊」の功績
2000年くらいから顕在化した、学級が機能不全に陥る状況は、教育関係者に少なからず衝撃を与えました。しかもその主な舞台は小学校です。それまで世間一般では、小学生というと「かわいらしい」「あどけない」といった形容詞がつくのが普通だったと思います。その天使たちが、教師の言うことを聞かずに、授業中に立ち歩き、私語をし、備品を壊し、反抗的な言動をするという状況が、あちこちで見聞きされるようになったのです。マスコミが、「学級崩壊」などとショッキングな名称を付けたのも理解できます。
しかし、一方で、その「学級崩壊」が、学級集団づくりの実践と研究を進める推進力になったとも言えるのです。それまで生徒指導の一部分のように捉えられたり、困った子どもたちへの対応として語られていた学級集団づくりが、一躍多くの教師の関心の中心となりました。また、実践者だけでなく学者もその分析や克服に乗り出し、学級集団づくりをテーマとした研究が数多く発表されました。そうした過程で、カウンセリングを学ぶ教師が増えたり、教育書のコーナーには学級集団づくりに関する書籍が、書架の多くの面積を占めるようになりました。
現在、学級集団づくりに関する情報はあふれるほどあります。私が、1990年代半ば、機能不全の学級を担任し、情報がなくて右往左往していた頃とは違います。ただ、今は数が多すぎて、却って、どのようにアプローチすればいいかがわからなくなっている現状もあります。数が多くなり過ぎると、選択すること自体のハードルが高くなり「結局、どれをやっても同じ」という類いの諦めを生んだり、逆に、あれもこれもと手を出して、実践がパッチワーク的になってしまって効果が出ないということが起こってきます。
そこで、これまでの主張をまとめ、学級集団の機能を高める道筋のモデルを作成してみました。それが【図1】です。勿論、これが唯一のモデルだというつもりはありません。ただ、私たちのチームが学級の機能の回復を高めるときに、これを活用し、それなりの成果を挙げていることを考えると、それほど的が外れたものだとは言えないでしょう。
学級集団育成の3段階
学級集団を育てるということは、授業や生徒指導の場としての条件をより良好にして、その働きを高めることです。また、自治的集団の育成は、日本の教師たちが従来から志向してものであり、また、現代的ニーズにも即応したものだと前回までに述べました。従って、ゴールイメージは、自治的集団です。
自治的集団とは、子どもたちの主体性によって運営される集団であり、その中核的能力はメンバーの協働による問題解決能力です*1。問題とは願いとギャップのある状況であり、問題解決能力とは、その状況を見取って課題を抽出し、解決できる力です。従って、問題解決ができる自治的集団の前提として課題解決集団があります。学習課題や教師が投げかけた生活上の課題など、比較的構成された問題を協力し合って解決することができます。
学級集団には、授業のしやすい集団としにくい集団があります。教師の言うことをよく聞く従順な集団は、教師主導の授業ではとてもうまく機能しますが、いざ、子どもたち同士で話し合ったり、力を合わせて課題を解決するような授業になると途端に動きが鈍くなることがあります。それは、子どもたちの主体性が育てられていないからです。つまり、問題解決能力や課題解決能力は、子どもたちの主体性によって下支えされた力だと指摘することができます。自治的な話し合いや問題解決学習をいくらやっても、子どもたちの主体性が育てられていないところでの活動は、やっているふりをしているだけで教師主導のそれの域を出ないのです。
自治的集団の基盤は信頼関係
子どもたちの主体的な活動を生み出すためには、子ども同士の信頼関係が必要です。信頼関係が成り立っていないところで、協働的な課題解決や問題解決は難しいからです。みなさんの職場(例えば、学校)を考えてみると直ぐにわかると思います。学年を組むときに信頼関係のあるメンバーとそうではないメンバーでは、仕事の成果が格段に違うことでしょう。メンバー同士の信頼関係と生産性は密接に関係しています。学級の子どもたちに目を移したときに、信頼関係がないのにそれなりにやっているということは、よほど教師によって管理されているか、驚くほど子どもたちが素直か、それほど子どもたちの協働が必要のない活動に留まっているといえるかも知れません。
では、子どもたちはどのようにしたら信頼関係を結ぶのでしょうか。教師が子ども同士を信頼し合うようにさせることはできません。教師ができるのはきっかけづくりです。馬を水飲み場に連れ行くことはできても、水を飲ませることはできないことと似ています。水を飲みたくなるようにする、つまり、子ども同士がつながりたくなるようにするのです。そのスタートになるのが教師と子どもとたちとの信頼関係です。リーダーとの個人的信頼関係が、メンバーのその場における適切な行動のエネルギー源になります。校長先生や学年主任が、自分のことを理解し、いつも応援していると自覚できたらいかがですか。他の職員とつながること、プロジェクトの推進、達成など、職場での働きやすさに大きな要因になりませんか。
学級集団育成の道筋は、第1段階が、教師と子どもたちの個人的信頼関係の構築、第2段階が、子ども同士の信頼関係の構築、そして、第3段階が、課題・問題解決能力の育成であると整理することができます*2。
(*1)赤坂真二編著『自ら向上する子どもを育てる学級づくり 成功する自治的集団へのアプローチ (学級を最高のチームにする極意シリーズ)』明治図書、2015
(*2)赤坂真二『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』明治図書、2013
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。
学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。
最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。
学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。
本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。