- 自治でつくる学級づくり
- 学級経営
重視するべきは、子どもたちの意欲を高めること
前回、自治的集団育成の道筋は、
第1段階:教師と子どもの信頼関係の構築
第2段階:子ども同士の信頼関係の構築
第3段階:協働的問題解決能力の育成
であると述べました。
では、なぜ第1段階に教師と子どもの信頼関係が必要なのでしょうか。
自治的集団では、組織化された子どもたちによって主体的に問題解決がなされます。しかし、それが教師の指示によってなされているとしたらそれは自治的集団とは呼べません。自治的活動とは子どもたちの主体性に支えられた活動です。自治的活動の展開において、もっとも重視されるべきものは、子どもたちの意欲を高めることです。
子どもたちのやる気を支える“重要な条件”とは
ここで、子どもたちのやる気について考えてみたいと思います。子どもたちは、どのような条件が設定されたときにやる気になるのでしょうか。
みなさんでしたら、どんなときにやる気になりますか。たった一つ条件を挙げるとしたらそれはなんでしょうか。
私たちの成長は、身体的な発達だけでなく、新しい行動や考え方の獲得の連続によって実現されます。今までなかった行動や考え方を獲得するためには、チャレンジが必要です。しかし、不安な状況でチャレンジが起こるでしょうか。
極端な例を挙げれば、バンジージャンプです。絶対大丈夫だと思っているから、あんな危険だと思われる行動をするのです。つまり、無謀な行為にも見えますが、高所から落下する恐怖よりも、絶対に助かるという安心感が凌駕するからこその行動です。私たちは、安心しているからこそやったことないことや難しそうなことをやろうとするのです。やる気を引き出す条件、それは安心感だと考えられます。
協働的問題解決も、アイディアを出し合ったり、考えを比較検討したりします。課題解決や合意形成場面では、対立が起こることがあります。そもそも、子どもたちの中には、クラスメートとかかわることすらリスキーだと感じる子もいます。子どもたちにとっては家庭生活ではあまり体験しない行動の連続となります。そうした行動をやってみようと思うためには、安心感が必要です。
教室で安心感をまず実現してくれるものはなんでしょう。バンジージャンプにおける命綱の役割をするものです。仲間とかかわるという新しい課題にチャレンジする子どもたちにとって命綱となるのは、やはり教師の存在です。もし、トラブルが起こったときに自分を守ってくれるものがなかったら、子どもたちのかかわりはとても限定された範囲に留まるはずです。
私は、その命綱となる存在を安全基地と呼んでいます。クラスの中には、かかわりをもとうとしない子もいるでしょう。子どもたちが私的グループを越えてかかわり合うようになるには、やる気にさせてくれる安全基地となる存在が必要なのです。
教師が子どもの「安全基地」になるには
しかし、教師だからといって無条件で子どもたちの安全基地になれるわけではありません。子どもたちにとっては、教師と信頼関係をつくることもチャレンジだからです。自ら進んで教師とつながってくれる子もいますが、そんな子ばかりではないことは先生方ならばよくご存知のはずです。まず、教師から信頼関係をつくろうとしないと、子どもたちと信頼関係がつくることができない時代であることを自覚したいものです。
では、子どもたちの安全基地になるためには何をしたらいいでしょうか。
1 いつも居ること
あたりまえのことですが、存在としての安定性が求められます。いつもいるから安心感が与えられるのです。休み時間になると事務仕事をしに、すぐに職員室に行ってしまうようなことをしていたり、出張などでしょっちゅう教室を空けていたりすると、だんだん子どもたちと距離ができてしまうのは当然のことです。
2 身体面、感情面のケアをする
普段どんなに優しい言葉をかけていても、体調が優れないときに冷淡であったり、不誠実な対応をしたりすると、子どもたちに安心感を与えることはできません。逆に、普段多少荒っぽい言葉をかけていていても、具合の悪いときに本気になって心配する教師はあたたかな人だと受け止められるでしょう。また、それは感情面でも同じことが言えます。怒ったり、悲しいときなど子どもたちが感情的にしんどいときに、しっかりとケアしてあげたいものです。失敗したとき、不安なときに逃げ込むことができ、応援し続けるような人です。
3 常に関心を向け続ける
人から関心を向けられないと、私たちは不安になります。いつも一緒にいても関心を向けていないのでは、「居ない」と同じか、それ以下です。むしろ害の方が大きいのではないでしょうか。一緒に居ながらにして関心を向けないのは、無視をしていることと同じだからです。子どもたちと居るときも居ないときも、子どもたちの興味関心に興味関心をもち子どもたちに関する情報を集めます。そして、一人一人との共通の話題をもち、話しかけ、質問し、常にコミュニケーションを怠りません。子どもたちが関心を向けられていると実感させることができる人です。
4 上機嫌である
不機嫌な人のそばにいると心がザワザワしませんか。一方、笑顔で機嫌のいい人のそばではホッとしませんか。子どもたちは大人の感情のあり方に敏感です。上機嫌な教師の姿は、情緒の安定や成熟さを示します。教師の感情的な安定性が、子どもたちの感情を落ち着かせます。子どもたちを笑わせることができたら、それはステキなことですが、それができなくても子どもたちといるときには、笑顔で楽しそうな姿でいることです。
5 やる気にさせてくれる
存在や感情面、そして子どもたちにケアや関心の安定性のある教師は、安全基地として機能するでしょう。安全基地ができたら多くの子がやる気になります。しかし、寝心地のいいベッドに十分寝たら「よし!」と飛び起きる子もいれば、ちょっと起こしてやらねばならない子もます。子どもたちは本来、やる気を出したいのです。やる気を引き出す教師は、子どもたちのニーズに応えることができるのです。
このように、自治的集団の高度な組織活動は、教師のカリスマ性によって起こるのではなく、徹底した個人的信頼関係の構築によって、実現されるのです。
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。
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子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。
最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。
学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。
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