- 自治でつくる学級づくり
- 学級経営
先生がいないとダメな集団から、先生がいなくても動ける集団へ
自治的集団づくりの実務は、子どもたちとの信頼関係の構築から始まりますが、勿論、それで完結するわけではありません。自治という営みを実現するためには、様々なことを子どもたちに教えなくてはなりません。自治的な活動の基盤となる、協働して問題を解決的な活動を営むためには、あまりにも準備不足だからです。子どもたちが自治的な活動を営むためには、いくつかの伝えねばならないことがあるわけです。
伝えなくてはならないことがあるからこそ、信頼関係をつくることが必要なわけです。教師は、「子どもたちと仲良くなればそれでよし」とならないことは全ての教師が知っていることでしょう。良好な関係だから指導ができるのです。
しかし、だからといって教え続けていればいいのかというと、そうではありません。自治的な集団とは、傍から見れば「あたかも教師が指導していない」ように見える集団です。自治的の育成とは、先生がいなくても動ける集団を育てることです。
自治的集団は、読んで字の如く、自らを治める集団です。そこには、高度な自立性が求められます。しかし、子どもたちの生活には、自立的能力を阻む要因に溢れています。先生方から「子どもたちが年々幼くなる」という話をよく聞きます。自分と子どもたちの年齢が乖離してきたために、子どもたちの育ちがディスカウントされて見えるからという指摘も成り立ちますが、子どもたちの社会的体験不足が指摘され続けている中で、その最前線に立つ教師の実感は妥当なものだと思われます。
本連載の第2回で指摘した、教師の「過保護・過干渉」型リーダーシップの出現は、こうした子どもたちの自立性の未熟さにも一因があると考えられます。しかし、だからといって、あれこれ手取り足取り指導していては、子どもたちの自立や自治的集団の育成は夢のまた夢です。では、子どもたちが自ら動くまで待てばいいのでしょうか。それではいつになったら子どもたちが動き出すのかわかりません。学校のカリキュラムには、過密です。子どもたちが動くことを待ってはいられないのが現実です。だから、最初は教師が自立のために布石を積極的に仕掛けます。
リーダーシップを変換する
まずは、積極に子どもたちに自治のために必要なことを教えます。そして、やがて子どもたちに委任していきます。自治的集団の育成は、教師の意図的なリーダーシップの変換によって実現します。
イメージとしては下に示す図のようになります。
自治的集団になるために必要なことを最初は、伝えたり、体験させたりして教えます。投げかけるという意味では、「ピッチャー」のような役割です。そうすると何割かの子どもたちが動き出します。その子どもたちを見つけて、その動きを認めたり、ほめたりします。子どもたちの動きを、受け止める役ですので「キャッチャー」といえるでしょう。いいボールが来たら「ナイスボール!」と指摘します。できなかったら、「ボール」だと指摘したり、「もう一度やってみようか」と励ましたりします。
自信を持った子どもたちが、今度は子どもたち同士で動き出します。そうしたら、今度は、その動きを子どもたちのそばで見取ります。時には子どもたちが失敗することもあるでしょう。そうしたら、必要な作戦を授けたりします。しかし、あくまで活動するのは子どもたちです。この段階では、「監督」の役割をやっています。やがて、子どもたちから少しずつ離れたところから見守り、応援をします。子どもたちが成功したら共に喜び、失敗したら共に残念がります。「応援団」です。大事なのは、失敗したときです。教師の仕事は、彼らを注意したり叱ったりすることではありません。応援団には、それはできませんから。失敗の改善策を子どもたちに考えさせ、次のチャレンジも見守るのです。
こうして、「ピッチャー」から「キャッチャー」へ、そして、「監督」から「応援団」へとリーダーシップを変換させていきますが、たった一つだけ、どの段階でも継続しなくてはならないものがあります。
それは「グラウンドキーパー」の役目です。子どもたちにはできない教室環境の整備をします。設備、備品などの購入、メンテナンスは、子どもたちに委ねることはできません。安全な清潔な環境の保全に努める必要がありますが、そうした物的環境だけでなく、雰囲気などの目に見えない環境の保全が何より大事です。
時間を守ること、適切な言葉遣いがなされているかなどです。森信三氏の言葉にあるように、「時、場、礼」の管理は、子どもたちが生き生きと活動できる最低条件にかかわる重要な仕事です。そして何よりも大事な環境は、教師の立ち居振る舞いです。教師があたかも指導していない教室を目指していますが、教師はそこにいるのです。多大なる影響を与えています。教室環境としての教師の姿を常にメタ視点でチェックすることは忘れないようにしたいものです。
自治的集団だけでなく、集団の育成の成功は、教師自身がまずしっかりと自分のリーダーシップを管理することが不可欠です。
【参考】赤坂真二編著『自ら向上する子どもを育てる学級づくり 成功する自治的集団へのアプローチ (学級を最高のチームにする極意シリーズ)』明治図書、2015
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。
学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。
最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。
学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。
本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。