赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」
学級づくり成功のカギは、子どもたちの自治にあり!
赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」(8)
リーダーシップを変換する
上越教育大学教授赤坂 真二
2016/1/15 掲載
  • 自治でつくる学級づくり
  • 学級経営

先生がいないとダメな集団から、先生がいなくても動ける集団へ

 自治的集団づくりの実務は、子どもたちとの信頼関係の構築から始まりますが、勿論、それで完結するわけではありません。自治という営みを実現するためには、様々なことを子どもたちに教えなくてはなりません。自治的な活動の基盤となる、協働して問題を解決的な活動を営むためには、あまりにも準備不足だからです。子どもたちが自治的な活動を営むためには、いくつかの伝えねばならないことがあるわけです。
 伝えなくてはならないことがあるからこそ、信頼関係をつくることが必要なわけです。教師は、「子どもたちと仲良くなればそれでよし」とならないことは全ての教師が知っていることでしょう。良好な関係だから指導ができるのです。
 しかし、だからといって教え続けていればいいのかというと、そうではありません。自治的な集団とは、傍から見れば「あたかも教師が指導していない」ように見える集団です。自治的の育成とは、先生がいなくても動ける集団を育てることです。
 自治的集団は、読んで字の如く、自らを治める集団です。そこには、高度な自立性が求められます。しかし、子どもたちの生活には、自立的能力を阻む要因に溢れています。先生方から「子どもたちが年々幼くなる」という話をよく聞きます。自分と子どもたちの年齢が乖離してきたために、子どもたちの育ちがディスカウントされて見えるからという指摘も成り立ちますが、子どもたちの社会的体験不足が指摘され続けている中で、その最前線に立つ教師の実感は妥当なものだと思われます。
 本連載の第2回で指摘した、教師の「過保護・過干渉」型リーダーシップの出現は、こうした子どもたちの自立性の未熟さにも一因があると考えられます。しかし、だからといって、あれこれ手取り足取り指導していては、子どもたちの自立や自治的集団の育成は夢のまた夢です。では、子どもたちが自ら動くまで待てばいいのでしょうか。それではいつになったら子どもたちが動き出すのかわかりません。学校のカリキュラムには、過密です。子どもたちが動くことを待ってはいられないのが現実です。だから、最初は教師が自立のために布石を積極的に仕掛けます。

リーダーシップを変換する

 まずは、積極に子どもたちに自治のために必要なことを教えます。そして、やがて子どもたちに委任していきます。自治的集団の育成は、教師の意図的なリーダーシップの変換によって実現します。
 イメージとしては下に示す図のようになります。

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 自治的集団になるために必要なことを最初は、伝えたり、体験させたりして教えます。投げかけるという意味では、「ピッチャー」のような役割です。そうすると何割かの子どもたちが動き出します。その子どもたちを見つけて、その動きを認めたり、ほめたりします。子どもたちの動きを、受け止める役ですので「キャッチャー」といえるでしょう。いいボールが来たら「ナイスボール!」と指摘します。できなかったら、「ボール」だと指摘したり、「もう一度やってみようか」と励ましたりします。
 自信を持った子どもたちが、今度は子どもたち同士で動き出します。そうしたら、今度は、その動きを子どもたちのそばで見取ります。時には子どもたちが失敗することもあるでしょう。そうしたら、必要な作戦を授けたりします。しかし、あくまで活動するのは子どもたちです。この段階では、「監督」の役割をやっています。やがて、子どもたちから少しずつ離れたところから見守り、応援をします。子どもたちが成功したら共に喜び、失敗したら共に残念がります。「応援団」です。大事なのは、失敗したときです。教師の仕事は、彼らを注意したり叱ったりすることではありません。応援団には、それはできませんから。失敗の改善策を子どもたちに考えさせ、次のチャレンジも見守るのです。

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 こうして、「ピッチャー」から「キャッチャー」へ、そして、「監督」から「応援団」へとリーダーシップを変換させていきますが、たった一つだけ、どの段階でも継続しなくてはならないものがあります。
 それは「グラウンドキーパー」の役目です。子どもたちにはできない教室環境の整備をします。設備、備品などの購入、メンテナンスは、子どもたちに委ねることはできません。安全な清潔な環境の保全に努める必要がありますが、そうした物的環境だけでなく、雰囲気などの目に見えない環境の保全が何より大事です。
 時間を守ること、適切な言葉遣いがなされているかなどです。森信三氏の言葉にあるように、「時、場、礼」の管理は、子どもたちが生き生きと活動できる最低条件にかかわる重要な仕事です。そして何よりも大事な環境は、教師の立ち居振る舞いです。教師があたかも指導していない教室を目指していますが、教師はそこにいるのです。多大なる影響を与えています。教室環境としての教師の姿を常にメタ視点でチェックすることは忘れないようにしたいものです。
 自治的集団だけでなく、集団の育成の成功は、教師自身がまずしっかりと自分のリーダーシップを管理することが不可欠です。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)
関連書籍
2016.3.2 update

 次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
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【個人的信頼関係の構築】『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 小学校編』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 中学校編』

 学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。

【集団のルールづくり】『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 小学校編』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 中学校編』

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