- 自治でつくる学級づくり
- 学級経営
しつけの目的
これまでに、自治的集団の育成のスタートは、子どもたちとの個人的信頼関係の構築であること*1*2、そして、その個人的信頼関係を結ぶねらいは、私たちが子どもたちに対してリーダーシップを発揮するためだと述べてきました。
リーダーシップとは、「目標達成のための影響力」のことです。子どもたちとの個人的信頼関係の構築に成功する教師は、それだけ子どもたち対する影響力を強め、教育の可能性を高めるわけです。
子どもたちに教育することのなかで、かなり重要な部分を占めるのが、しつけです。それが基盤となって集団を形成するルールが構築されます*3*4(子どもたちとの個人的な信頼関係の構築、ルール指導の具体的実践については参考文献をご覧ください)。
本稿は自治的集団づくりについて述べていますが、私は自治的集団づくりを目的化しているわけではありません。子どもたちが必要な力を身につけたら、自ずとその集団は、自治的集団の様相を見せるだろうということです。その必要な能力とは、協働的問題解決能力です。なぜ、それが必要なのでしょうか。
それは、協働的問題解決能力が、子どもたちの社会的自立能力の中核となると考えているからです。なぜ、社会的自立能力が必要かと言えば、それが子どもたちの生きる力として不可欠だからです。(子どもたちの幸せは、社会的に自立することによって実現することには異論は無いでしょう。勿論、自立の度合いにはグラデーションがあります。それぞれの個の能力に応じて自立を想定すべきでしょう。)しかし、自立とは決してひとりで成し遂げなくてはならないわけではありません。むしろ、必要に応じて他者に効果的に依存しながら、実現するべきものです。
だからこその協働的問題解決能力なのです。人生は、山あり谷あり、解決するべき問題の連続です。その問題の中には、ひとりで解決出来ない問題も数多くあることでしょう。そうした問題に向きあうときに、ひとりで抱えて八方ふさがりになるのではなく、他者の協力を得ることで効果的に解決ができます。だから、力強い自立能力を持つためには、できるだけ多くの他者とかかわる力を持っている方がいいのです。
助けられる個が存在すると言うことは、その周囲に助ける存在がいることを意味します。協働的問題解決能力は多くの場合、双方向性を持ちます。つまり、協働的問題解決能力を持つ人が増えると、それだけ助け合いが社会のあちこちで起こり、社会的自立ができる人が増えると言うことです。
社会的自立能力を生きる力や幸せになる力と言い換えるとしたら、協働的問題解決能力を育成することは、多くの人が生きる気力や幸福を実感できる社会の実現に寄与することになります*5。
つまり学級集団づくりにおけるしつけは、学級の凝集性を高めるためや、ましてや管理をするためではなく、子どもたちの協働的問題解決能力を育てるために行うべきなのです。
協働の光と闇
しかし、その際に気をつけたいことがあります。協働における協力的関係を「仲良くすること」と捉えないことです。仲良くすることは関係性志向で、しばしばよい関係であることが目的化されます。「仲良し集団」というと必ずしも肯定的な意味ではないことがわかるように、好ましくない側面も持っています。一方、協働においては、目的を達成するために協力的関係を結びます。従って、課題解決志向の関係です。課題の解決は、その達成感による肯定的な感情により互いの結びつきを強くします。課題解決志向の集団の方が、生産性が高く、互いの関係性も良好になるのです。
しかし、この協働も万能ではありません。協働はひとりで作業するよりも個人の能力が引き出され、生産性を上げると捉えられがちですが、の全く逆のことが起こり得るのも現実なのです。そもそも万能な考え方などあるのでしょうか。もしあるとしたら、「全ては万能ではない」という認識です。子どもたちに協働的問題解決能力を育てるからこそ、そのリスクを最大限押さえるような環境づくりをしっかりとすべきなのです。協働のリスクには次のようなことが挙げられます。
@ ただ乗り
「ただ乗り」とは、無賃乗車の如く、成果の創出に対し然るべきコストをかけないことです。学習場面では、話し合いなどで自分の意見を言わずして話し合った結果だけを享受することです。もっとも単純な例は、問題に対して一切考えずに答えだけ教えてもらうような行為です。
A 社会的抑止
人からどう思われるかを意識しすぎて不安になって意見を言わなかったり、人から受け入れられるような発言を志向して本音を言わなかったりすることです。
B 思考の阻害
協働においては、相手の視線や注目を受けたり、相手の話を聞くことが求められます。また、相手の間に合わせて話すようなこともしなくてはなりません。複数の作業を同時進行で行うために、思考が中断されたり阻害されたりすることがあります。みなさんも、ひとりで作業したい、ひとりの方が集中できると思うのは、こうした体験があるからでしょう。
C 同調圧力
集団は一緒に過ごしているとそこに、一定の思考の枠組みや方向性ができてきます。誰に命じられるわけでもなく、なんとなくそれに添うように行動してしまい、自由な発想や発言ができなくなります。
学級集団づくりにおけるしつけは、仲良くするためではなく、よりよい協力ができるためのものであり、それは、協働において起こり得るリスクを可能な限り低減するように為されることが望ましいと考えられます。その具体例は次号で。
*1 赤坂真二編著『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 小学校編』明治図書、2016
*2 赤坂真二編著『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 中学校編』明治図書、2016
子どもたちとの個人的信頼関係の構築が、アクティブ・ラーニング時代の集団づくりの基盤であるとの考えに基づき、その具体的な実践を小中学校の実践家が公開している。
*3 赤坂真二編著『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 小学校編』明治図書、2016
*4 赤坂真二編著『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 中学校編』明治図書、2016
質の高い集団は質の高いルールを持ち,それを機能させるためのしつけをしている。学級を機能させるルールとその指導の実際を小中の実践家が紹介している。
*5 赤坂真二『スペシャリスト直伝! 成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』明治図書、2016
アクティブ・ラーニング時代の集団の持つ基本的能力である協働的問題解決能力を育成する集団づくりとカリキュラムの在り方について考察した。
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。
学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。
最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。
学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。
本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。