- 著者インタビュー
- 特別支援教育
本書はソーシャルスキル全般の力を育てることを目的としています。ソーシャルスキルは「相手とうまくつき合うための技能」ですが、実際にはそれだけをいくら練習しても実生活にうまく生かしきれません。そこで本書では、子どもたちが身につけたさまざまな技能を、場に応じてスムーズに発揮できるように「イメージする力」を育てることにしました。つまり、ソーシャルスキルとイメージする力の双方を育てることを重視したわけです。その結果、相手とかかわる際の「柔軟性」を身につけることができると考えたのです。
たとえ、やりとりの中で、適切なソーシャルスキルの技能を表現していても、何かぎくしゃくとし、相手に気持ちがうまく伝わらない場合があります。それは、対人関係がスキルで成り立つほど簡単ではないからです。「イメージする力」が育つことで、1つのことをいろいろな角度から読み取れるようになります。その力が育てば、身につけたソーシャルスキルの技能を、臨機応変に発揮できるようになるのです。「イメージする力」は、相手とやりとりを行う際の「潤滑油」のような役割を果たしてくれると言えるでしょう。
例えば、絵を見て関連するものをイメージし絵で表現する課題(『仲間を描こう』)では、最初なかなか表現できなかった子が、指導者とのやりとりを続ける中で少しずつイメージを膨らませることができるようになってきます。「湯飲み茶碗」の絵を見て、「おじいちゃんがこたつで飲んでた」「おせんべいを食べてたよ」「みかんも近くにあったよ」「熱くてフーフーしてた」などと話はどんどん広がり、周りの子どもたちをも巻き込んでいきます。そして、そのようなやりとりの中で、相手のペースに合わせたり、相手の気持ちを読み取る力が育っていくのです。
子どもたちが将来、社会で生きていくためには、間違いなく相手とうまくやっていく力(対人関係、社会性)が求められます。うまくいったりいかなかったりする中で、それでもこの相手とつき合っていこうと思わせる人間性が必要になってくるのです。その意味で、ソーシャルスキルはスキルで留まってはいけないのです。スキルは、あくまで相手と接する際のきっかけであり、その先の長い期間、相手との豊かな人間関係を築いていくことが大切になってきます。その土台作りが、まさに子ども時代にもっとも適していると考えます。
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