著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
自立活動だから、ライフキャリア教育を!
元神奈川県立金沢養護学校副校長渡邉 昭宏
2015/7/31 掲載

渡邉 昭宏わたなべ あきひろ

1955年 東京生まれ。都立石神井高等学校、中央大学商学部卒業後、神奈川県立平塚盲学校、県立伊勢原養護学校、横浜国立大学附属養護学校、川崎市立田島養護学校、県立武山養護学校、県立みどり養護学校教頭を経て県立金沢養護学校副校長。2013年3月後進に道を譲り退職。

―先生はキャリア教育ではなく、「ライフキャリア教育」という言い方にこだわっていらっしゃいますが、先生がめざされる「ライフキャリア教育」と本書書名にもあります自立活動の関係についてどうぞ教えてください。

 キャリア教育とは人生における「働き方」ではなく「生き方」を学習していくものであるという、本来の意味を強調したのが「ライフキャリア教育」です。「ライフキャリア教育」では、卒業後とか大人になってからのことを考えて逆算するといった捉えではなく、明日の生活に役立てばと考えるので、重心や筋ジスといった児童生徒の皆さんにとっても必要な教育と位置付けることができます。そして、今の困難な状態を軽減して明日の生活や学習を少しでも楽にする教育と押さえると、これはまさしく「自立活動」の目標そのものになります。

―『みんなのライフキャリア教育』『教科の授業deライフキャリア教育』に続いての本書ですが、この3冊のシリーズのこと詳しく教えてください。

 「勤労観・職業観の育成」という言葉に踊らされて、キャリア教育が就労準備教育のようになっていた頃、私は就職の可能性がなくても「豊かな人生」を営むことは可能であり、その実現のため、そして親亡き後に備えて、学校時代にすべきことがあることを指摘してきました。そしてそれは自立活動を中心の教育課程で学ばれている児童生徒の皆さんにこそ必要な教育だと説いてきました。今回の3冊目では重度重複の皆さんの人生をICFの視点で押さえながら、具体的な事例を通じてわかりやすく説明しました。3冊を通して読んでくださると、「ライフキャリア教育」こそが、現代のすべての児童生徒に求められている教育だと気づいていただけると思います。

―ライフキャリア教育を意識すると自立活動の授業がどのように変わってくるでしょうか?

 学校で作成される個別の指導計画の多くは、児童生徒の実態を自立活動の側面で把握し、目標や課題を設定しています。そしてそこには「本人・保護者・教師の願い」が必ず記されているはずです。それを少しでも実現して「本人・保護者・教師の喜び」に変えるためには、日々の自立活動の授業にライフキャリア教育の4つの視点(まわり、じかん、あいて、じぶん)を取り入れることが非常に有効です。そうすることで自立活動の授業を、本人のみならず、明日以降の家族の「生き方」についても考えに入れた指導として展開できるようになってきます。

―先生は各地でライフキャリア教育についてのご講演をされていますが、その時によく質問されることがありましたらどうぞ教えてください。

 私が「職業人である前にまず社会人であれ」と強調するので、ソーシャルスキルトレーニングと何が違うのかと問われることがあります。いうまでもなくキャリア教育はキャリア発達を促す(支援する)教育であるので、表面上のスキル獲得ではなく「心の成長・変容」をめざすものです。例えば清掃検定に合格できても廊下に落ちているゴミを自分から拾えないようではキャリア教育をしたことにはなりません。単に知識や技能を次々習得させていくというのではなく、自主性、自発性、自信、意欲といった心を育てていく(本人のキャリア発達を助けていく)のがキャリア教育なのです。

―最後に、ライフキャリア教育が全国に広がり、学校がどんなふうになったら良いな…とお考えか、先生の思いをどうぞ教えてください。

 私が「みんなの…」と言い出した時は、就労をめざせる3割の生徒だけではなく、いわゆる重心の方々をも含めた残り7割の児童生徒の皆さんが主役になれるキャリア教育を考えてのことでした。最近は、児美川教授の『キャリア教育のウソ』という本がヒットしたように、小・中・高校においてもキャリア教育が「ワーク」から「ライフ」に確実にシフトしだし、小・中・高校からも「ライフキャリア教育」への問い合わせが来るようになりました。つまり「働く力」をがんがんつけていかなくても、「暮らす力」「楽しむ力」が充実していけば「働き続けるモチベーション」や「覚醒時の日中活動の活性化」に結びついていくものなのです。教室や学習のユニバーサルデザイン化に続き、今度は「ライフキャリア教育」を特別支援学校サイドから小・中・高校サイドへ発信していかれたらいいなと思っています。

(構成:佐藤)

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