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最新トレンド「自己調整学習理論」を図解でわかりやすく!
東京都公立小学校白杉 亮
2025/1/1 掲載

 最近注目されている「自己調整学習」の理論。
 簡単に言うと、
「『自ら学ぶ子ども』ってどんな子ども?」
「『自ら学ぶ子ども』はどうやったら育てられるの?」
 ということを明らかにした理論です。

図1

※図1

 ただし、この「自己調整学習」という言葉は、残念ながら誤解されて使われていることもあります。
 今回は、その自己調整学習を正確に理解できるよう、図解で分かりやすく解説します。

1.「自ら学ぶ子ども」ってどんな子ども?


 アメリカの学者ジマーマン(Zimmerman)によると、自ら学ぶ子ども(学習を自己調整できる子ども)は、「学習前・中・後の3段階のサイクルをぐるぐると回せる子ども」だといいます。

図2

※図2

第1段階 見通しをもつ段階(予見段階)

 学習を始める前に、これからの学習について「見通し」をもつ段階です。

@やる気を出す(動機づけ)
「がんばるぞ!」「よし、はじめよう」「おもしろそうだな」など
A目標を立てる(目標設定)
「今日はここまでやろう」「今日はこれができるようになろう」など
B学習方法の計画を立てる(方略プランニング)
「今日はこの教材を使おう」「今日はこの方法で学ぼう」「この順でやろう」など

 授業でも学習課題を把握したり、学習の進め方を確認したりする場面がありますよね。また、子供が興味をもてるように導入を工夫したりしますよね。自ら学ぶ子どもは、それらを自分で行うというわけです。
 学習を自己調整できる子どもは、具体的な目標を立て、適切な方法を考え選択し、やる気や興味をもって学習に向かいます。
 一方で自己調整が難しい子どもは、「頑張る」「とにかくやる」といった、あいまいで投げやりな目標を立てたり、自信や興味をもつことができなかったりします。
 自己調整しながら学びを進められるかどうかは、この最初の段階に大きくかかっています。

第2段階 実行する段階(遂行段階)

 次に、実際に学習を進める最中の段階です。
 この段階には「モニタリング(観察)」と「コントロール(制御)」という2つのポイントがあります。
 まず「モニタリング」は、自分の学習が順調に進んでいるか確認することです。
 授業でも、先生が机間巡視するなどして、子供の学習状況を把握しますよね。そのような観察を自分で行います。
 「集中できているな」「いい調子だ」と思えば、そのままやり方を続けます。
 しかし、「集中できていないな」「少し困ったな」という時は、「じゃあやり方を変えてみよう」と修正する。これが「コントロール」です。
 つまり、自分の学習状況を観察しつつ、状況によってやり方を修正できる子どもが、学習を自己調整できる子なのです。
 一方、自己調整が難しい子どもは、勉強中も様々なことに気を取られます。やり方を変える場合も、あくまで気分によるもので、行き当たりばったり。
 いかに目標に向かって学習を進められるかが、この段階でのポイントです。

第3段階 振り返る段階(自己省察段階)

 学習を終えたら、自らの学びを振り返ります。
 「うまくいった」ことは自信につなげ、「うまくいかなかった」ことは原因や対策を考えます。そして「もっとやりたい!」「次はこうしよう!」と次の学習への意欲や見通しをもつことになります。
 自己調整の難しい子どもは自己評価そのものを避けがちです。また、うまくいかなかった場合に「自分は頭が悪いから」「運が悪かったから」など、能力や運に原因があると考えがちです。
 反対に、自己調整ができる子どもは「やり方」や「練習量」などに原因を求めるので、前向きに改善しよう考えます。そしてこの「自己省察段階」で、次への意欲や見通しをもつことで、新たな「予見段階」につなげるのです。

 このように、「自ら学ぶ子」は「予見―遂行―自己省察」のサイクルをぐるぐる回すことができます。
 このサイクルを繰り返し回し、自らの学習をブラッシュアップしていく。これこそが「自己調整学習」です。
 ですから、ただ「自己選択・自己決定」させても、それがイコール「自己調整」につながるとは限りません。
 自分が選択した方法が、本当に適切だったのか。もっと良い方法はないのか。そういったことまで検討して、自分の学習をさらに良くしていこうとしなければ、「自己調整している」とは言えないのです。

2.学習を自己調整できる子はどのように育つのか?


 しかし、はじめから学習を自己調整できる子どもなんてめったにいないですよね。
 そもそも、はじめからできるなら教師はいらないわけで、やはり最初は他者からの影響が大きいと言われています。
 研究では、自己調整の力は4段階で発達すると言われています。

図3

※図3

@観察レベル 見てやり方を学ぶ
 学習方法のお手本を見て、試しにやってみる段階です。
 子どもは、とりあえずそのままやってみる、という状態です。

A模倣レベル 自分でマネしてみる
 教わった通りのことをとりあえず自分でやろうとする段階です。
 教わった学び方の手順が子どもに身についており、自分でまねしてやってみようとしている状態です。

B自己制御レベル 自分のものにする
 教わったやり方については自分で使いこなせるようになる段階です。
 教わった学び方が、当たり前のようにできるようになるだけでなく、新しい場面でも「ここでもあのやり方が使えそうだな!」と自分の基準と照らし合わせて学び方を選ぶことができます。

C自己調整レベル 自分に合った形で工夫してできる
 学び方を自分なりにカスタマイズし、完全に自分で調整する段階です。
 教わった学び方だけでなく、自分なりの学び方をつくり出すことができるようになります。
 このレベルに達してようやく「自己調整できる子ども」と言えるのです。

 最初の2段階は教師や友達をモデルにして、観察したり真似したりという他者の影響が大きいですよね(これを「社会的影響」と言います)。
 一方、3・4段階目になると、自分の内側からの影響が大きくなります。
 このように自己調整の能力は、「最初は社会的な影響を大きく受けながら、徐々に自分の中からの影響を受けるように」発達していくと言われています。
 いきなり手放しても、自己調整ができるようにはならないのです。

3.学習を自己調整するために必要な3つの要素


 では、その自己調整学習のサイクルを促すには、どのようなポイントを押さえればよいのでしょうか。
 自己調整学習の定義にそのヒントがあります。

「学習者が、動機づけ、学習方略、メタ認知において、積極的に学習過程に関与する学習」(Zimmerman, 1989)

図4

※図4

 この定義に含まれている、「@動機づけ(やる気)」「A学習方略(学び方)」「Bメタ認知(客観視)」の3つ要素をフル稼働して学習のサイクルを回すのが自己調整学習ということです。

要素@動機づけ 自己調整できる子は自ら「やる気」を出す
 「動機づけ」すなわち「やる気」「モチベーション」が自ら学習を進めていくうえで重要になることは理解しやすいと思います。
 この動機づけは、勉強を始める前に「よし!やるぞ!」「おもしろそう!」と自分を奮い立たせるだけではありません。
 学習の最中にも、自分自身のモチベーションを保ったり、学習後には積極的に自己評価し、次の学習にも向かおうとしたりすることも必要です。

要素A 学習方略 自己調整できる子は「学び方」を使いこなせる
 自己調整できる子どもは、学習方略(学び方)のレパートリーが多様です。よくある反復練習だけでなく、図解したり、知っていることと関連付けたり、知識を分類・整理したり、困ったときに人にヒントを求めたり…。
 それらを必要に応じて選べるようになる必要があるのです。

要素B メタ認知 自己調整できる子は自分を「客観的」に見ている
 自己調整するためには、「自分が今どんな状態なのか」が分かっていなければいけません。そのためには自分を客観的に見る能力、「メタ認知」能力が必要になります。
 学習前には、自分自身や課題のレベルを踏まえて目標設定する必要がありますし、学習中には自分が学習に集中できているか、計画に沿っているか、順調にできているか観察しなければなりません。
 もちろん学習後には振り返って、自己評価したりする必要があります。

 子どもたちの自己調整の力を伸ばすには、この「動機づけ」「学習方略」「メタ認知」の3つの要素にアプローチする必要があるのです。

4.自己調整学習は方法論ではない


 自己調整学習理論は、30年ほど前にアメリカで提唱された理論です。それが最近になって、日本の学校現場でも聞かれるようになりました。
 しかし、まだまだ正確に理解されているとは言えません。
 例えば、「『自己調整学習』に取り組んでいます!」「『自由進度学習』と『自己調整学習』、どちらがいいですか?」といった言い方を耳にすることがあります。

 「自由進度学習」「探究学習」「問題解決学習」などと同じように「○○学習」という表現だからか、「自己調整学習」を一種の学習法(あるいは指導法)と捉えてしまいがちですが、そうではありません。

 ここで「自己調整学習」を「体調管理」にたとえてみます。
 世の中には、様々な健康法が存在していますね。
 これらは具体的な【方法論】です。しかし、こういった【方法論】は、目的によって何を選ぶか変わってきますし、人によっても効果の差があるでしょう。
 でもいずれにせよ、「○○健康法」という【方法論】を通して「体調管理できている状態」を目指すわけです。
 「自己調整学習」もこれと同じ。自己調整学習自体は【方法論】ではなく、目指すべき学習のプロセス、状態です。
 例えば「自由進度学習」といった方法において、子どもたちは学習の方法やペースを自分で選択したり、学びをふり返って次の目標を立てたりする必要があります。まさに「学習を自己調整」する必要があるわけです。
 すなわち、「自由進度学習」という【方法論】を通して、「学習を自己調整している」状態を目指すわけです。逆に言うと、学習者が自らの学習を調整していないような「自由進度学習」は、形だけの自由進度学習なのです。
 「探究学習」であろうと「問題解決学習」であろうと、その過程で学習を自己調整する場面があるということなのです。

 この自己調整学習の理論を正確に理解し、実践に反映させることで、子どもたちはより主体的に学びに向かっていくことになるはずです。

【参考・引用文献】

  • Schunk, D. H. (2001). Social cognitive theory and self-regulated learning, Zimmerman B. J. & Schunk D. H. Eds “Self-regulated learning and academic achievement: Theoretical perspectives”, 125-151, Erlbaum.
  • Zimmerman B. J.(1989). A social cognitive view of self-regulated academic learning, Journal of Educational Psychology, 81, 3, 329~339
  • Zimmerman B. J. & Moylan A. R.(2009). Self-regulation: where metacognition and motivation intersect, Hacker D. J., et al. Eds “Handbook of metacognition in education”, 299~315, Routledge

白杉 亮しらすぎ りょう

東京都公立小学校教諭。早稲田大学大学院教育学研究科修了、修士(教育学)。
数年間の正規教員を経て退職、あえてフリーランス(臨時的任用教員)として育休等の教員の代わりに学級担任をしている。
教育心理学の知見を基に効果的な授業や学級経営のあり方について、日々実践と研究を重ねている。
論文で学会最優秀賞受賞経験あり。理論を学び実践に生かす先生方の学習会「EduAca」主宰。

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