教育DXの時代における特別支援教育
文部科学省は、「教育DXに係るKPIの方向性」(2024)の中で、令和7年度までに「生成AIを校務で活用する学校を50%」にするという目標を掲げています。この目標は、教育現場におけるAI活用の重要性を示すものです。特に、個々の児童生徒に合わせたきめ細かな指導が求められる特別支援教育において、AIの活用は大きな可能性を秘めています。
「教員の強み」と「AIの強み」を生かした協働をめざして
特別支援教育では、一人ひとりの児童・生徒に合わせたきめ細かな指導が不可欠です。しかし、現場の教員は時間的制約や人的リソースの不足により、児童生徒に合わせたオーダーメイドの授業の充実に苦心しているのが現状です。
一人ひとりに合わせた指導には、「教員間の協働や対話が効果的である」ことが示されてきました。しかし、そのための授業準備には膨大な時間と労力が必要とされてきました。この課題を解決するため「子どもの得意を生かす個別最適な授業アシストAI」(以下アシストAIと表記)をOpenAI社のGPTsで作成、活用しました。
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教員の強みとAIの強みを生かした協働
このアシストAIは「児童生徒への深い理解と児童生徒に合わせた授業設計ができる『教員の強み』」と「複数の条件を考慮したアイデアを瞬時に生成する『AIの強み』」を掛け合わせ、教員とAIが協働することで、より“個別最適な授業づくり”ができるよう、上記の図のようにデザインしています。
このアシストAIとの対話の流れは、下記の通りです。
「子どもの得意を生かす個別最適な授業アシストAI」の対話の流れ
まず、アシストAIから教員への問いかけが始まります。
1.アシストAI:「授業づくりを一緒に考えましょう。@発達年齢 A教科 B好きなこと・得意なこと C目標を教えてください」
2.教員は、AIからの問いかけを考えることを通して、児童生徒の発達年齢や得意なこと、授業の目標を考えます。ここで重要なことは、AIに全てを任せるのではなく、AIからの質問に答えることで教員が“考える”というプロセスです。
3.アシストAIは、教員が回答した情報を基に、発達年齢や得意を生かしたアイデアを瞬時に5つ生成します。
4.生成されたアイデアの中から、児童生徒のことを深く理解している教員が児童生徒に1番合ったアイデアを選びます。AIが提案してきたアイデアの中に、ぴったりなものがなかった場合は、AIと一緒にさらにアイデアを考えていきます。
5.アシストAIは、教員が選んだアイデアを基に指導案のたたき台を作成します。
6.教員は、そのたたき台をAIとの対話によってより洗練させ、完成度を高めていきます。
「アシストAI」活用の結果
5名の特別支援学校教員を対象に1ヶ月間の実証実験を行った結果、アシストAIを活用した教員の声をまとめました。「AIは新しい視点や発想を与えることに最も効果を発揮」しました。AIとの対話を通して「生徒の得意や興味をより意識するようになった」「AIを使うことで、より授業の目標や発問の内容を考えるようになった」等の教員の声を聞いています。
アシストAIを活用した先生たちの声
また、教材作成時間の大幅削減(平均約1.7時間/週) 事前4.4時間→事後2.7時間にも効果がありました。
1週間あたりの業務時間の変化 事前・事後比較
一方で、指導案を作成する際に参考にする情報の入手先として、事前では3人の教員が選んでいた「ベテラン教員との相談」が0に減少しました。AIを活用することで、教員同士の相談が減る可能性があることは、今後の課題であり、教員同士の協働をより大切にしていく必要性を感じています。
AI活用において教員の専門性と教員間の協働がより重要に
本研究から、AIと教員の協働が特別支援教育に2つの主要な効果をもたらすことが明らかになりました。1つは、教材作成時間の削減や授業準備の効率化といった業務効率化です。もう1つは、個々の児童生徒の特性に合わせた指導の充実や、児童生徒の興味・関心に即した教材準備につながることです。
しかし、AIの提案を効果的に活用するためには、教員の専門性がより重要になります。なぜなら、AIからの提案を評価し、実際の教育現場で活用するためには、児童生徒への深い理解、教育実践の経験、そして特別支援教育に関する専門的な知識が不可欠だからです。
つまり、教員とAIがそれぞれの強みを生かして協働するためには、今まで以上に子どもたちの声や表情に耳を傾け、実態を把握し、その上でAIとの対話で得たアイデアを教員間で相談・協働し、よりカスタマイズしていくことが重要だと考えています。
教員の強みとAIの強みを生かすために
※今回の研究は、参加者が5名と少人数であるため、データとして客観性に欠ける点があります。
【参考文献】
文部科学省(2021)『令和の日本型学校教育』の構築を目指して 〜全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと, 協働的な学びの実現〜. (2024年8月31日閲覧).
文部科学省(2023)初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン. (2024年8月31日閲覧).
文部科学省(2024)教育DXに係るKPIの方向性. (2024年8月31日閲覧).
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