- 赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ
- 学級経営
現行の学習指導要領に見られる学力の三要素は、今更言うまでもなく、
1 基礎的・基本的な知識・技能の習得
2 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
3 学習意欲
です。
これは、どこから来ているかというと、平成19年6月に公布された学校教育法の一部改正によって、小・中・高等学校等において「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と定められたことによります。それまでぼんやりしていた生きる力が随分明確になったと言われます。そもそも「生きる力」とはなんなのでしょうか。
私が小学校の教師になった、平成元年(1989年)頃は、公にはそうした言葉を聞くことはありませんでした。しかし、1996年に文部省(現在の文部科学省)の中央教育審議会が「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」という諮問に対する第1次答申の中で、
「我々はこれからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくことが重要であると考えた。」
と示されたことから、教育界の新たな到達点として彗星の如く現れました。
このことからわかるように、既に2000年より以前に、国では、変化への対応力や、主体的な判断力や問題解決能力、そして他者との協働力や豊かな人間性の育成といった次期学習指導要領でねらわれている資質・能力が議論されていたことがわかります。
こうした流れを受けて、ゆとり教育に移行しようとしていたわけです。しかし、学習指導要領が告示された翌年の1999年あたりから、学力低下論がわき起こり、その後のPISA2003、2006における順位の低下、所謂「PISAショック」が追い打ちをかけ、この責任を問われる形で、ゆとり教育に方向転換が迫れられたのは皆さんがご存知の通りです。順位の低下が、本当にゆとり教育のせいかどうかは、議論が分かれるところです。
こうした流れを踏まえた上で、改めて次期学習指導要領でねらう資質・能力を見てみましょう。
平成28年12月21日に中央教育審議会から出された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」によれば、
@「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」
A「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」
B「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」
とあります。
私は、この表記はいかがなものかと思います。審議の流れを知らない人がここだけを読むと、この三つを同時に達成しなくてならないと思ってしまうのではないでしょうか。議論は、進むに連れて、本質的なところから枝分かれしていきます。枝葉に目を奪われると根幹を見誤ってしまうでしょう。少し遡ると、ねらわれている学力の本質が掴めることでしょう。
この三つには相互に関連性があります。平成28年8月26日に中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会から出された「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ(報告)」には、次のような表記があります。B「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵かん養)」についてです。「前述の@及びAの資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素である」というものです。つまり、「知識・技能」や、「思考力・判断力・表現力等」は、「学びに向かう力・人間性等」の涵養のために準備されるものだということです。こういう風に言ってもらえれば、この3つが構造化され、何が重要なのかわかります。しかし、一方で、所謂、活用力の部分で三つの力が並記され、これもよくわかりにくいように思います。
もう少し遡れば、学力の正体がはっきりするかもしれません。平成27年8月26日に出された同部会から出された「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)」によると、思考力・判断力・表現力等について次のような表記があります。
「問題を発見し、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、プロセスを振り返って次の問題発見・解決につなげていくこと(問題発見・解決)や、情報を他者と共有しながら、対話や議論を通じて互いの多様な考え方の共通点や相違点を理解し、相手の考えに共感したり多様な考えを統合したりして、協力しながら問題を解決していくこと(協働的問題解決)のために必要な思考力・判断力・表現力等である。」とあります。活用力とは、ズバリ言えば、協働的問題解決力だということがわかります。
この資質・能力の基盤は、国立教育政策研究所が提唱した「21世紀型能力」であり、その議論のもとは、OECDのキー・コンピテンシー(主要能力)です。キー・コンピテンシーとは、「1 人生の成功や社会の発展にとって有益、2 さまざまな文脈の中でも重要な要求(課題)に対応するために必要、3 特定の専門家ではなくすべての個人にとって重要、といった性質を持つとして選択されたもの」であると定義されています(文部科学省HP「OECDにおける「キー・コンピテンシー」について」より)。これを見るとキー・コンピテンシーの中心に位置しているのは、幸せな人生の創造や社会への貢献に向かった問題解決力を意図していることがうかがえます。
多様な人たちが多様な意見を言っていると議論がまとまりません。そうすると、妥協点は並列表記です。みんな大事なことだけに、結論になる頃にはモザイクの様になってしまって、なんだかよくわからなくなります。こうして議論の流れを見ていると、担当者のみなさんの様々な葛藤ややりとりがあったことが読み取れます。しかし、あれも大事これも大事では、困るのは子どもたちです。教育関係者にとって教育は仕事であっても、子どもたちには人生なのです。
世の中が変化する、それは、今の大人たちが予想のできない変化です。そこで様々な問題が起こり、そこから多くの課題が派生してくることでしょう。それらの具体は、はっきりしませんが、問題が起こることだけははっきりしているのです。教師が学力の姿を巡って右往左往していたら、子どもたちを路頭に迷わせることになります。日本の学力の姿は、いささかややこしいと思います。学力の中核は、問題解決能力と言い切ってしまったらいかがでしょうか。その問題も、一人で解決するには荷が重すぎるものとなるはずです。そこで必要になってくるのは、力を合わせて目的を達成する協働力です。そこをぶれずに見据えてしっかりと育てることができる教育が、子どもたちに未来を見せることができるのです。
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
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クラスでは目立った問題が起きないけれども、仲もそれほど悪くないようだけれど
も、授業に活気が感じられない、素直に学習しているけれども、やる気があるように
は見えないというクラスが増えています。そこには、授業者である教師が見落としが
ちな問題が潜んでいることがあります。子どもたちのやる気を引き出し全員参加の授
業を実現するにはどうしたらいいのでしょうか。そのためのアイディアが満載となっ
ています。
アクティブ・ラーニングは,単なるペアがグループを活用した交流型の学習ではありません。そして,ただ学習内容に深く触れればいいわけではありません。そこには子どもたちの主体的に学び合う姿が必要なのです。子どもたちが,生き生きとかかわりながら学ぶ授業づくりの具体例を豊富に示しました。
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