- 勇気づけリーダーの学級経営
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1 本当は彼女と付き合う自信がないから
クラスが荒れて困っている先生方から相談を受けます。自ら「相談をする」というほとんどの方は、そこから回復する希望があります。なぜならば、回復しようとする意欲があるからです。しかし、相談といいながら愚痴を言うだけの方もいます。そういう方は、回復がかなり難しい状況に陥っている(ほぼ、無理)と言わざるを得ません。
クラスが荒れる場合は、うまくいかない循環にはまっています。回復する人は、その循環を変えることによって荒れから抜け出します。しかし、回復できない方は、その循環が変えられない、いや、変えようとしないのです。アドラー心理学風に言うと、変える勇気がくじかれている状態です。ここでは、勇気は、やる気とか意欲くらいに捉えておいてください。そういう方には、助言をしてもあまり効果がありません。次々と、できない理由を挙げるからです。助言する度に、「そうですよねえ……でも」とか、「わかってはいるんですけどねえ……しかし」と、助言を聞くようなふりをして、否定をします。
無理もありません。こういう方は、
問題が解決することを望んでいない
のです。「え?そんなバカな」と思われますか。しかし、人は、知らず知らず問題を解決しないことを選ぶこともあるのです。「問題を解決する」ためにかかるコストよりも、「問題を解決しない」ことによってかかるコストのほうが、「まだマシ」だとどこかで判断している場合は、改善のための行動をとろうとしません。
身近な例で説明しましょう。
「ボクに彼女ができないのは、太っているからだ」としょぼんとしている男性がいました。そこで「じゃあ、ダイエットしてみたら」と助言してみました。すると彼は、「やせたい、やせたい」と言いながら、相変わらず高カロリーな食事を続けていました。これは、ダイエットができないのではなくて、実は、彼女が欲しくないのです。彼にとっては、彼女がほしいという願いよりも、彼女をつくることに対する不安や自信のなさのほうが強いのです。そのため、太ったままでいることを選んでいるわけです。
こうした例は、探せばいくらでもあると思います。赤面してしまって人前でうまく喋ることができないという人がいます。これは、人前でしゃべりたくないから赤面という症状をつくり出していると考えられます。また、不登校傾向の子に「どうして学校に行きたくないの?」と問うと、「勉強が難しい」「仲良しの友だちがいない」「いじめられる」という風に、聞く度にいろいろな理由を言うことがあります。この子は、嫌なことがあるから学校に行きたくないのではなく、学校に行きたくないから、そのための理由をつくり出していると考えられます。人は、問題解決のための意欲がくじかれると、問題解決をしないための理由をつくるということがあるのです。
クラスを立て直せないと嘆いている方は、本当は、クラスを立て直すための努力をしたくない、つまり、クラスを立て直したくないという状態に陥っているのかもしれません。クラスが荒れてしまって、その状態が一定期間続くと、教師は、それを立て直す意欲が奪われてしまうのです。そうなってしまってからでは、その教師自身がやれることは、ほとんどなくなってしまいます。
そこで、ここでは、そうなる前に学級の荒れに気づくために、学級崩壊の過程を記述してみたいと思います。誰でもできる「学級崩壊マニュアル」です。
2 学級崩壊マニュアル
学級を崩壊させることはとても簡単です。
まず、「気になる子」を見つけてください。反抗的な子、非協力的な子、授業中によく私語をする子、立ち歩きがちな子、勉強のできない子、甘えん坊の子、どんな子でもいいです。
最もわかりやすい反抗的な子を例にとりましょう。反抗的な子が、授業中にあなたの指示に従わなかったとします。あなたは最初は、優しく声をかけます。しかし、その子は言うことを聞きません。そこから数度、声をかけてみてください。あなたが声を大きくしても、語気を強めてもその子は言うことを聞かないでしょう。このままでは、周囲の子に示しがつきませんから、ちょっと怒鳴ってみましょうか。ひょっとしたら、しぶしぶ言うことを聞くかもしれません。しかし、その子は、日を変え、場所を変えて同じようなことをすることでしょう。そうしたら、ぜひ、同じようにやってみてください。前回、怒鳴ったらうまくいったではありませんか。怒鳴るのが苦手な方は、声をかけ続けてくださいね。クラスを荒らすためにも、繰り返しが大事です。
やがて、クラスは少し落ち着かなくなってきます。一番の気になる子ではありませんが、まあまあの「気になる子」が、授業開始時刻を守らなかったり、授業に集中しなかったりします。もちろん、「気になる子」同様、その子も見逃さないでくださいね。しっかり注意してください。注意して聞かなかったら、もっとキツく言ってあげましょう。もし、授業時間に遅れたら少し長めにお説教してあげましょう。また、朝の会で挨拶をきちんとしなかったら、何度も何度もできるまでやり直しをさせましょう。挨拶は、生活の基本ですから。
たとえ、ルールを守ったり、しっかり学習をしたりしている子どもたちがいたとしても、間違っても、ほめてはいけません。そんなことをしたらこれまでの努力が台無しです。ルールを守ることや学習をすることは、当たり前のことですから、ほめるなんてもってのほかです。
こうした地道な努力をしていると、それまでルールを守ったりしっかりと授業を受けていたりした「ノーマーク」だった子どもたちが、ルールを破ったり、うつろな目で授業に参加していたりするようになります。こうなったら、しめたものです。クラスの荒れは、順調に進行しています。学級崩壊まで、あと少しです。
これくらいになると、先生の言うことを聞かないだけでなく、子ども同士の仲の悪さが顕在化してきます。いや、ここまでにもそういうことはあちこちで起こっていたのです。しかし、「子どもたちってこんなものだから」と見逃していたのです。または、不適切な行動をする子どもたちに目を奪われていて気づかなかったのです。ここまできたら後はあなたが放っておいても、クラスはどんどん荒れていきます。
クラスみんなで笑い合ったことは、もう過去の思い出です。その代わり、時々、馬鹿にしたような笑いがおこります。目立たない子を、影でいじめるかもしれません。小学校の中学年以上になれば、特に女子の間で、こそこそ話は日常化し、睨んだ、睨まれたなんて訴えが頻発することでしょう。この頃になれば、朝になると保護者からの連絡帳が教卓に数冊重ねられていることでしょう。もちろん、「うちの子がいじめられている」「○○ちゃんに意地悪をされています」「学校に行きたくないと言っています」などの訴えです。
でもね、不思議なことに
授業は成り立っているように見える場合がある
のです。一部、私語をしたり、立ち歩いたり、教室を抜け出すような子がいることにはいます。ただ、授業は淡々ととりあえず流れていくのです。かつてのように、教師に向かって集団で嫌がらせをしたり、あからさまな授業妨害をしたりはしません。しかし、クラスの雰囲気は淀み、だらっとしらっとしているのです。
これで今風の学級崩壊の出来上がりです。ここでは反抗的な子を取り上げましたが、あなたが、その子に過度な注目をすれば同じようなことが起こるでしょう。様相はそれぞれ異なりますが、クラスが荒れるときはそこにある程度の共通事項を見いだすことができます。
荒れが進行していく循環は見つけ出せましたか。そこに早く気づけば、何らかの手を打つことができることでしょう。
次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。
学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。
最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。
学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。
本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。
クラスでは目立った問題が起きないけれども、仲もそれほど悪くないようだけれども、授業に活気が感じられない、素直に学習しているけれども、やる気があるようには見えないというクラスが増えています。そこには、授業者である教師が見落としがちな問題が潜んでいることがあります。子どもたちのやる気を引き出し全員参加の授業を実現するにはどうしたらいいのでしょうか。そのためのアイディアが満載となっています。
アクティブ・ラーニングは、単なるペアがグループを活用した交流型の学習ではありません。そして、ただ学習内容に深く触れればいいわけではありません。そこには子どもたちの主体的に学び合う姿が必要なのです。子どもたちが、生き生きとかかわりながら学ぶ授業づくりの具体例を豊富に示しました。
クラスは、係活動や当番活動などがばらばらに独立して機能するわけではありません。それぞれの活動が連動して学級を育てます。 いきいきとした活動性の高い学級集団を育てるためには、各活動を意図的に配置したデザインの質を上げることが大切です。学級で効果を上げている実際のシステムとその運用のポイントが豊富に紹介されています。
「クラスがまとまらない」という話をよく耳にします。今の時代は、まとめようとしてもまとまりません。子どもたちを一定の枠に入れ込む発想は、もう時代遅れです。子どもたち一人ひとりに、協力して課題を解決する力、つまり、協働力を育てるようにします。子どもたちのつながる力を引き出す指導のステップと魅力的な活動例が豊富に紹介されています。