赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」
学級づくり成功のカギは、子どもたちの自治にあり!
赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」(1)
なぜ、自治なのか?
上越教育大学教授赤坂 真二
2015/6/15 掲載

あんなにいい子たちだったのに……

 「先生、来年も私たちの担任になってね。」
 「こんないいクラスはない。」
 子どもたちが、3月の別れの時にこんな風に言ってくれたら、担任冥利、教師冥利に尽きるというものでしょう。
 しかし、次年度、あなたの担任した子どもたちの様子がおかしい。新しい担任たちから聞こえてくる「気になる子」の名は、昨年度あなたの学級の子どもたちの名ばかり。授業中の態度が悪かったり、反抗的な態度をしたり、不登校傾向になったりしていると言います。あなたとしては、とても信じられない気持ちです。

挿絵1 放課後になると、かつての愛児たちが教室に遊びに来ます。彼らが口々に言うのは、担任とクラスメートに対する不満や悪口です。
 小学校では、「よい学級をつくった」と思った次の年にこうした経験をする先生がいると聞きます。また、自分の前ではあんなにがんばっていた子どもたちが、中学校に行って好ましくない態度を取っているという噂を聞くこともあります。中学校の先生なら、胸を張って卒業していった子どもたちが、高校を退学していたなんてことあるかもしれません。
 また、こうした話は、次の年に限ったことではありません。小学校だったら、担任の言うことしか聞かず、専科の先生の時間になると荒れる学級。中学校だったら、特定の教科担任の授業になると荒れる学級があります。

教師が変わると問題が起こる原因は?

 「それって、その時間の担当の力量が低いからでしょ。」と一笑に付しますか。
 例え、ある一定の真実がそこにあるとしても、それは個々の教師の問題にしてしまうべきでしょうか、それとも何らかの手を打つべきでしょうか。そして、手を打つとしたらどのような手を打つべきでしょうか。
 教師の力量の問題から目をそらしてはいけないと思いますが、だからといってこの問題をそれだけのことに矮小化してはならないのではないでしょうか。次年度に自分の学級が学級崩壊したり、クラス編成替えがあった場合でも、学級崩壊の主役級が自分の学級出身者だったりしたら、元担任としては、心中穏やかではいられないと思います。
 しかし、問題は、過去を思う教師の感情的なものよりも、現在を生きる子どもたちの発達にかなりのダメージを与えるということです。
 自分が担任しているときうまくやっていても、次年度になって、学級や学習に適応できない、担任になじめない、クラスメートと交われない、また、現在においても自分の言うことは聞くが、他の教師の言うことは聞かないという状態が、子どもたちにとってどういう意味があるかということをもっと真剣に考えるべきです。
 相手によって態度を変えることは、誰もが持つ行動傾向ですから、それ自体は問題ではありません。むしろそれは現実的な適応能力だと言えます。問題は、相手によって態度の振れ幅が大きく、意欲を極度に減退させたり、非協力的な態度を取ったりして不適切な行動をしてしまうことです。
 つまり、

自分とマッチングの悪い相手には、不適切に振る舞ってしまうことが問題

なのです。
 それが、成績の低下や反抗的言動や逸脱傾向につながってしまうことが往々にしてあり、時には取り返しがつかないような事態を招くことが起こり得るということなのです。

だからこそ、「自治」が必要となる

 現在の集団づくりのおける問題として、

子どもたちのパフォーマンスがあまりにも「教師次第」である

ということが指摘できます。あれだけ落ち着いていたクラスが、教師が代わった途端に荒れると言うことが起こっています。子どもたちがあまりにも教室環境に依存的になっていて、そこには、子どもたちの主体的な生き方を見て取ることができません。子ども相互の適切な影響力や子ども集団の教育力というものの喪失がうかがえるのです。
 教師次第でパフォーマンスが変わることによって、最も不利益を被るのは他ならぬ子どもたち自身です。それを防ぎ、安定的に健全な発達を促すためには、子どもたちの主体性を育てることが必要です。
 学校教育において、子どもたちの主体性を育てるためには、教師がリーダーシップを変えねばなりません。教師がリーダーシップを変えるためには、ゴールとする集団像を変えねばなりません。ゴール像が教師のリーダーシップを規定するからです。そこで、教師への依存性を低め、子どもたちの主体性によって形成される集団が、

自治的能力をもった集団

なのです。
 本稿では、自治的能力をもった集団を育てるためにはどのようにしていったらいいかを考えていきたいと思います。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:松川)
関連書籍
2016.3.2 update

 次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
 心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
 本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。

 学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
 子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。

 最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。

【個人的信頼関係の構築】『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 小学校編』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 中学校編』

 学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。

【集団のルールづくり】『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 小学校編』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 中学校編』

 本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。

【365日の学級集団づくりに】『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 1年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 2年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 3年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 4年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 5年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 6年』

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2015/6/15 21:38:49
    うちのクラスでも同じ事が起きている様子
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