著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
障害のある子みんなのライフキャリア教育
元神奈川県立金沢養護学校副校長渡邉 昭宏
2013/10/29 掲載

渡邉 昭宏わたなべ あきひろ

1955年、東京生まれ。中央大学商学部卒業後、神奈川県立平塚盲学校、県立伊勢原養護学校、横浜国立大学附属養護学校、川崎市立田島養護学校、県立武山養護学校、県立みどり養護学校教頭を経て県立金沢養護学校副校長。2013年3月、後進に道を譲り退職。

―ライフキャリアとはどういうことをいうのでしょうか。またなぜライフキャリア教育という言葉を使うのですか。

 キャリアというのは人の「生き方」そのものであって、働くことはその一部に過ぎないのですが、キャリア教育というと、卒業後の進路に向けて小学部段階から働く力をつけていくものと誤解され、ワークキャリアを育成して就職に結びつけるという目先のことだけに囚われた教育が各地で行われています。しかし卒業後の長い人生を豊かなものにするのは働く力ではありません。むしろ学校時代に暮らす力、楽しむ力がどれだけ育っているかにかかっています。このことを強調するために、あえて「ライフキャリア教育」というこれまでにない言葉を使うことにしました。

―障害の重い子どもにもキャリア教育は必要なのでしょうか。

 キャリア教育を働く力(ワークキャリア)の育成と捉えている限り、障害が重くなればなるほど必要性を感じにくくなります。しかし「生きる力(ライフキャリア)」と捉えると、親亡き後や有事の際に必要なのは、むしろ重度重複そして重症心身障害者のほうではないでしょうか。日常生活でできることを少しでも増やしていくことも大切ですが、支援を受けながら生きていくには、いろいろな人やさまざまな場での支援が受けられるように学校時代に意識的に広げていくことも、重い子どもたちにとっては重要なキャリア教育になります。

―いま実際に行っている授業の中でライフキャリア教育は行えるものなのでしょうか。

 着替えや給食など日常生活の指導はライフキャリア教育そのものですが、例えば朝の会の「日直」「挨拶」「呼名」「天気」「日課」「献立」など一つひとつをみても、そのなかに人間関係を築く力、必要な情報を読み取って次の行動に生かす力、先を見通して心の構えをつくる力、自分の意思を表明する力などを育む要素が満載です。つまり授業の内容や流れは同じでも、教師が意識的にそうした力を育もうと意図して行えば、どんな授業においてでもライフキャリア教育ができるのです。

―最後に、全国の現場で頑張られる先生へのエールをお願いします。

 手洗い一つとっても生きていくのに必要な力ですが、やがてそれが「働くために必要な力」にもなっていきます。現場実習が近づいてから、手洗いの仕方やエプロンのひも結びを練習しても遅いのです。日常生活の中でいかに先を見越して早い段階から意識的に取り組んでいくかがキャリア教育だといえます。実習先や進路先で「学校はいったい何を教えて来たんですか」と言われないように、ライフキャリアについてはしっかりと押さえていかないといけません。特に小学部や重度の生徒を担当している先生方、本書を読めばキャリア教育に対するイメージが大きく変わります。日々の取り組みに光が射して、特別支援教育のモチベーションもアップすること間違いなしです。子どもたちが将来、地域で豊かな人生を送れるように一緒にがんばりましょう。

(構成:佐藤)

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