SSTを行うために欠かせないのは「ふわっとあたたかなやわらかいクラス」です。でも、クラスがいつも安定するというのは、大変難しいことでもあります。今回は、授業や活動の中でできるSSTを通して、子どもとクラスの心の耕し方について考えていきましょう。
3回目は2回目からの続きとなります。2回目も合わせてご覧くださいね。
「頑張ったらみんなが認めてくれる」「このクラスは素敵だ」というやわらかな安定したクラスでないと、どんな学びも活動も安心してできないから本物の学習にならないのですよね。
ふわっとやわらかいクラスになれば、子どもたちは失敗や間違いをすることを怖れなくなり、安心して学習や活動に取り組めます。そのための安心感を作り出してくれるのがSSTなのです。SSTをうまく取り入れると、クラスにあたたかい言葉が増え、集団を育てる効果がうまれます。
(SST:ソーシャルスキルトレーニング。→詳しくは1回目の用語解説をご覧ください)
でも、学級っていつでも安定しているわけではないです。そんな状態の時は、SSTってためになるな、というメッセージを子どもたちに伝え切れていないことがあると思うんですよね。
SSTの指導では、常識を教え込んだり、自分たちがうまく対処できない場面を想定して考えさせたりすることが多いですね。でも、大人の都合で展開するので、子どもにとっては「楽しくない」わけです。前回に述べたような、SSTが定着しないケースの問題は、ずばりその時間が「楽しくない」ことによるのではないか、と思います。
「○○のスキルができるようにならなくちゃ!」という教師の心を、子どもは見すかしているのかもしれないですね。それで、子どもは反発してくるのかも。そして「これでおれの何を試すのか?」って、なるのかもしれませんね。
そうですね。だから、安定していないクラスでSSTを行うときはとくに、工夫して「楽しく行う」ことが大切です。私は、いろんなクラスの状態があっても、SSTを通じて「心を耕していく」ことができるのではないか、と考えているんです。尾ア先生は、安定していないクラスでSSTを楽しく行うために、どんな工夫をされていますか?
岡田智先生のSSTの本(『特別支援教育ソーシャルスキル実践集-支援の具体策93』)にのっていた『一本でぬり絵』は、どの学級でもしやすいですね。オリジナルのバージョンはこんな感じです。設定を変えると幼児から6年まで幅広くできるのもいいところです。
一本でぬりえ
ねらい:貸し借り、道具の共有、順番交代、言葉のやりとり
- 道具を共有して、適切に道具を貸し借りするスキルを身につけることをねらいます。最初に各自に1枚ずつぬり絵を、色鉛筆を複数人で共有する状況を作ります。
やり方:
- 班や,小グループで活動する。
- 各自の色鉛筆から2〜3本ずつ、色鉛筆を出す。同じ色が重ならないようにするが、「持ちたい色が同じになるときは、じゃんけんで決めましょう」と始めに約束を示しておく。
「かして」「いいよ」「まってね」「ありがとう」という色鉛筆の貸し借りのセリフを事前に練習しておく。 - ぬりえに自由に色を塗る。自分の持っていない色で塗りたくなったときに「○さん、▲色かしてください。」と言うセリフや、貸してもらったら「ありがとう」というセリフを使わせる。
- ぬりえに色を塗りながら、借り手は『呼びかけ、お願い、お礼』を学び、貸し手は『上手ないいかた』を学ぶことができる。
(「一本でぬりえ」岡田 智他『特別支援教育ソーシャルスキル実践集-支援の具体策93』明治図書、2009、P54、17参照)
来校してくださったゲストティーチャーにお礼状を書く機会って結構あって、そのお礼状に色を塗ったりする活動は意外と多いんです。そんな時、「『一本でぬりえ』をするよ。」と、SSTを作業にプラスさせると、一石二鳥です。しかも楽しいので、取り組みやすいのです。
この『一本でぬり絵』は、教科学習の外国語でも使いました。色の言い方を覚えるとき、虹の色塗りの作業をしたんですが、「赤かして」「ありがとう」などと外国語で言うようにしたら、高学年でも使えるんですよ。
なるほど、楽しそうですね。その時の子どもたちの反応はどんな感じでしたか?
楽しそうでした。ただ、虹は最大7色なので貸し借りの回数自体は少なかったです。でも、日本では虹は7色とされているけど、6色や3色と感じていたりする国もあるんだよ、という話もしたので、いろんな文化について気付けて、楽しかったようです。それに、色を塗りながら「虹は赤が外側か、内側か?」なんていう話もグループで盛り上がってしていました。
(参考:「What Makes a Rainbow?」,Piggy Toes Press:英語の絵本)
このSSTをクラスで展開した時、たとえば落ち着きがない子やコミュニケーションが苦手な子に配慮した点はありますか?
つい騒いでしまう落ち着きのないAちゃんには、事前にお願いしておいて、クラス皆の前で、私と一緒に「一本でぬりえ」の見本役をしてもらいました。それと、コミュニケーションが苦手なBちゃんは、まだ相手がその色を使っている時にタイミング悪く「貸して」と言ってしまったり、自分の好きな色を相手に貸さなかったりしていました。そんなBちゃんに対しては、私が側にいて「今言おう」と合図をしていました。
でも、もっとBちゃんがうまく取り組めるようにするには、どうしたらよかったのでしょうか。
対人意識が育っていない子どもは、全体の流れが見えていなかったり、スキルの必要性が理解できなかったりして、課題場面でもスキルを使えないことがあるのです。
そういう時は、事前に確認したセリフを黒板に貼って全体の流れを確認できるようにしたり、セリフを3回は言いましょうというように、ルールをはっきり示して枠を決めてあげたりするとよいのではないでしょうか。
なるほど。目で確認できるようにしたり、数ではっきりさせたりすると良いのですね。
このSSTで体験したスキルは、さまざまな場面で応用ができそうですね。言葉は違いますが、仲間を遊びに誘うときなどに「入れて」「いいよ」「ありがとう」「ちょっと待ってね」というふうに。
「入れて」って言えず、見ているだけの子どもって、中・高学年にもいます。そういう言葉を使う経験が少ないのでしょうか。
最近の子どもたちは、人を傷つける言葉はたくさん知っていても、相手の気持ちを考えた、あたたかい「ふわっと言葉」のレパートリーは持っていないことが多いですね。でも、保護者や先生、友だちなど、まわりの人からたくさんの「ふわっと言葉」をかけてもらえば、それがその子の中に「貯金」のように蓄積されていくのです。ですから、クラスの子どもたちに「ふわっと言葉」の「貯金」を増やしてあげること、それは通常学級において欠かせない支援だと私は思っています。
それは、教師の側からの言葉かけにも、たくさんの「ふわっと言葉」が必要だということですね。私たちもできるだけ多くの「ふわっと言葉」の「貯金」を心がけなくては。
クラスがたくさんの「ふわっと言葉」にあふれていること。そのことがクラスを育て、「みんな違ってみんないいクラス」「あたたかなやわらかいクラス」を作っていくことになると思います。
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それぞれに障害を持っていますが
上の子はもうすぐ20歳になります。
病院では、広汎性発達障害、アスペルガー症候群と診断されましたが、
昨日、札幌での阿部先生の講演に参加させて頂き
自閉症スペクトラム、皮膚と味覚に敏感なのだとわかりました。
そして、ソーシャルスキル指導を受ける事がアスペルガー症候群には有効なのだと思いましたが
この年齢になるとそれはどこで指導して貰うと良いのかわかりません。
診療内科には、通院しておりますが、
本人は、何故病院に行かなければならないのか?も理解しておりません。
下の子は
ADHD、高機能自閉症と診断されておりますが
LDもあると思います。学校や病院での指導を受けない為に、勉強がストレスになっております。
そして、中学校の先生にはソーシャルスキル指導を学ぶ時間などはなく
お友達と部活が大好きで、学校に通っていますが
授業は苦痛を感じながら参加しております。
他の子供達と一緒にいたい
という本人の希望もあり、別での指導が出来ません。
こんな子供への対応は、どのようにしていったらよろしいでしょうか?
長くなってしまいましたが
宜しくお願いします。m(_ _)m
阿部先生からは、講演会場となった星槎さっぽろ教育センターにご相談いただく窓口があることをご紹介いただきました。
ご相談をお望みでしたら、ぜひそちらを利用してみてください。