- 勇気づけリーダーの学級経営
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1 感情を揺さぶることそのものがねらい
前回までに、子どもたちの気になる行動や問題行動の目的は、社会的文脈をもっている、つまり、居場所を確保することだと言いました。これらの行動は、大人にとって感情を揺さぶる実に困った行動なわけですが、それは、子どもたちなりに必死に適応しようとしているが故の行動というわけです。大人の感情、とりわけネガティブな感情を揺さぶるので、なかなか大人たちが素直に支援しようとは思わないのではないでしょうか。こちらが支援しようと思っても、「死ね」とか「うざっ」などと言われるとこちらもいらっとします。しかし、それこそが、彼らの目的なのです。
「死ね」とか「うざっ」とかいうのは、赤ちゃんの泣き声と同じ働きです。赤ちゃんは、「お腹空いた」「あたためて」「さびしい」と言葉で訴えることができません。だから、全力で不快感を泣き声に込めて訴えます。大人たちも、赤ちゃんは泣くものだと思っているから、泣いている赤ちゃんを見ると少々いらっとすることはあるかもしれませんが、「おお、どうしたの〜? おなかちゅいたの〜?」と赤ちゃん専用の言葉とイントネーションで赤ちゃんの内言を言語化しながら対応することでしょう。赤ちゃんは、私たちの感情を揺さぶることでケアする行動を引き出そうとしているのです。気になる行動や問題行動をする子どもたちも同じです。それをすることで、
ケアをしてもらおうとしている
のです。そして、さらに重要なのは、彼らは自分でもどう対応していいかわからないのです。だから、他者の支援が必要なのです。素直に「先生、困っているので助けてください」と言ってくれたら、教師としても支援のし甲斐があるというものです。しかし、それが言えないのです。「助けて」と言う代わりに「死ね」、「困っているんです」と言う代わりに「はあ?」と言うわけです。それなりに成長した子どもたちに面と向かって「死ね」と言われると、「おお、どうしたの〜、何か困っているの〜?」とはこちらも笑顔で言えないでしょう。
しかし、教育のプロたる教師は、たとえそこでいらっとしても、教育をすることが仕事です。教師には、
子どもの暴言や問題行動を「支援要請」として捉える翻訳能力が必要
です。むしろ、その翻訳能力こそが、プロのプロたる所以でしょう。だから、適切な対応をするためには彼らのそうした行動のメカニズムを知ることが大事なわけです。
2 誤った目標に基づく行動
アドラー心理学は、子どもたちの気になる行動や問題行動を翻訳するための重要な示唆をくれます。これらの行動を、本稿では不適切な行動と呼びます。ここまでお読みいただければわかるように、これらの行動は子どもにとっては必然の行動であり、目的そのものには悪意がありません。しかし、それは周囲にとっては、迷惑な行動になっているので不適切な行動と呼びたいと思います。
その悪意のない目的とは、居場所を見つけることです。しかし、子どもたちは、その居場所を適切な方法で見つけることができずに、不適切な方法で見つけようとする場合があります。それを、「誤った目標」をもった状態と言います。子どもたちにとっては、居場所を見つけるための指標・目標となっている行動ですが、それをし続けても本当の意味で居場所を見つけることはできず、しかも、周囲に迷惑をかけ、結果的に自分にも不利益が及ぶということで誤った目標と言います。
(1) 注目を引く
最初は、子どもたちは注目を引こうとします。みんなと違う行動をとろうとします。大きな声で話したり、話してはいけないときに話したりします。「絵本を読むから教卓の周りに集まってごらん」と言っても来ないことがあるかもしれません。場合によっては、授業中に立ち歩くことがあるかもしれません。教師の発言の揚げ足をとって、周囲を笑わせるかもしれません。教師の方も、そうした発言で笑いが起こるのでついつい許してしまいますが、彼らは、注目を得るために人を馬鹿にするという行動をとっています。教師の発言の揚げ足をとるのは、一番笑いを誘うことができるということを知っているからです。教室で最も目立たない子の発言を取り上げても、目立つことなどできないことをちゃんと知っています。
また、いつもよくほめられる子どもたちの中にも注意が必要な子がいます。それは、教師がいるときといないときの行動の差が大きい子です。教師の前では、掃除や係活動を一生懸命しても、教師のいないときは掃除も係活動も身が入らないような子です。その子たちは、誰かの役に立つために行動しているのではなく、ほめられるために動いています。ほめられることに価値をおいている子は、すでに不適切な行動を始めていると言っても過言ではありません。(2) 力比べ
この子どもたちは、相手に反抗することがあります。何か指示をすると「うるせえ!」と怒鳴ることもあれば、「なんでそんなことするんですか」と冷めたように言うこともあるでしょうが、抗うような言葉と態度で、積極的に反抗する場合と、言うことを聞かないという消極的な反抗をする場合があります。両者は、教師の言いなりにはならないというところで共通しているわけです。彼らへの注意は効果的ではありません。積極的反抗を教師にこっぴどく叱られて、消極的反抗に転化する子もいます。女子の児童生徒に見られます。こうした子どもたちは、とにかく教師の言うことを聞き入れようとしません。勝てないまでも、負けないでいようとするわけです。(3) 仕返し
この子どもたちは、相手をできるだけ傷つけようとします。若い男性教師は、小学校の高学年女子たちにこれをやられてしまう場合があります。ベテランの教師にも若い頃、そうした経験をもっている方がいることでしょう。そばに行くと、さっと体をよけられたり、露骨に無視をされたり、何か言うと、隣の子とひそひそ話をしたり。場合によっては、教師の触った物をさわらないというアピールをしたり、給食は教師に背を向けて食べるというようなことをします。食事する姿を見られたくない、そして、教師が食べる姿を見たくないという理由です。悪口を言うときは、人格攻撃をしてきます。相手の容姿、話し方、行動などコンプレックスだと思われるところをストライクで攻めてきます。それだけ相手をよく見ているわけです。(4) 無能力を誇示する
この子どもたちは、できるだけ自分がダメであることをアピールします。「見捨ててくれ」というメッセージを出します。教室ならば、何もしません。何一つ学習活動に参加せずに、ただひたすら教室にいるだけです。一日中、机に伏していることもあります。自分の無能さをアピールすることで、相手に「あなたは私にかかわる力がない無能な人だ」と伝えているわけですから、仕返しが進化した形とも言えます。
いかがでしょうか。みなさんの教室の気になる子は、このどれかに当てはまりますか。不適切な行動は、(1)から始まり、やがて(2)、(3)、(4)へ進んでいくという捉え方がよくなされますが、実際は複合的に起こっていることもあり、単純にあの子はこのタイプ、と捉えない方がいいと思います。しかし、不適切な行動を理解するヒントにはなると思います。
さて、こうした子どもたちにはどのような支援が必要なのでしょうか。ここからがプロの腕の見せ所です。
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